難治性神経疾患基礎研究支援事業シンポジウム開催のご案内

特発性小脳失調症(とくはつせいしょうのうしっちょうしょう)を対象とした多施設医師主導臨床試験のご紹介

進行性核上性麻痺(しんこうせいかくじょうせいまひ)を対象とした医師主導臨床試験のご紹介

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岐阜大学で学ぶことをおすすめする理由

自己免疫性GFAPアストロサイトパチーのエビデンス創出研究(GFAP抗体測定依頼)

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岐阜大学フェイスブック

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ご挨拶

学生、研修医の皆さんへ ―全力で次世代の神経内科医を育てます―

私が神経内科医になったきっかけ
脳神経内科にさほど関心がなかった私が、この道に進んだきっかけは、研修医2年目に、脳神経内科医不在の病院で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんを担当したことでした。その50歳代の女性はALSと診断されないまま、呼吸不全のため救急外来で人工呼吸器が装着されました。その後、ALSの診断を聞かされたその患者さんは、悲嘆に暮れました。未熟な私はその方を支えることができず、患者さんは精神的にも身体的にも回復することができず、さまざまな合併症を併発し、1年ほどしてお亡くなりになりました。その時、私は強烈な無力感に襲われましたが、しばらくして、優れた脳神経内科医であれば何ができたのだろうかと考えました。1年目の研修でお世話になった先輩の脳神経内科医に相談したところ、「神経難病はまだ治癒させることはできないけれど、脳神経内科医にしかできないことはあるんだよ」と言われ、初めて脳神経内科に進むことを真剣に考えるようになりました。のちに先輩医師から聞いたその言葉は、日本の脳神経内科の黎明期を築いた椿忠雄先生の「治らない患者に普通の意味の医学はだめであっても、医療の手は及ばないことはない」というお考えが引き継がれたものであることを知りました。
直面する無力感にいかに取り組むか?
その後、私は脳神経内科医の道を選び、たくさんの患者さんにめぐりあいました。患者さんから多くのことを学びましたが、同時に何度も無力感に襲われました。歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症の女児のどうしても止められないけいれん発作や、多系統萎縮症の患者さんの突然死、脳梗塞患者さんの血栓溶解療法後の合併症による症状の悪化、ブドウ糖注射をしたあとは治療法がない低血糖脳症など数え切れません。ただ私にとって救いになった先輩医師の言葉は「ひとりでは何もできないけど、情熱を持った仲間が3人集まれば、世界に通用し、患者さんに貢献する研究ができる」というものでした。その後、私は仲間を見つけて、無力感を克服するために、これらの問題に対する臨床研究や基礎研究に取り組みました。具体的には、ポリグルタミン病の治療研究、多系統萎縮症の突然死に対する予防法の確立、脳梗塞の新しい治療薬の開発(米国ベンチャー企業を設立)に取り組みました。その過程で、臨床も基礎研究も諦めないこと、情熱をもつことがとても大事であることを学びました。また「患者さんや世の中のために頑張る」という正しい目標を持つことが大切で、そのような努力をするひとを、周囲の人々は見てくれていて、無償の応援をしてくださることを体験しました。
私はどんな神経内科医を育てたいか?

私は以上のような経験を、医学生や若い医師に伝え、神経疾患に立ち向かう仲間を増やすことが何より大切だと思っています。健康に恵まれた私たちは、病で苦しみ、病院に訪れた人を、笑顔で退院していただくため頑張る必要があります。私たちの目指すものは、受診された患者さんが「ここに来てよかった」と思っていただけるようになることです。そのために私が育てたい理想の医師像は以下の3つです。

  1. 共感(empathy)の心を持って、患者さん、家族に寄り添うことのできる医師

    患者さんや家族の気持ちを理解し、寄り添うことが大切だとよく言われますが、そのためにどうしたら良いのかは実は難しい問題です。まず患者さんや家族の考えを想像できる感受性を持ち、患者さんの不安に気づきサポートできる知識や技術を持ち、さらに様々な臨床倫理的問題の考え方や解決法についても理解する必要があります。これらについてしっかり教育してまいりたいと思います。

  2. 臨床能力のすぐれた医師

    いくら患者さんの心に寄り添えても、臨床力が不足していればその価値は半減します。神経診察、解剖学的診断、正しい診断や治療のためのエビデンスの見つけ方、文献の読み方、考え方を徹底的に鍛えます。さらにベッドサイドから臨床研究の端緒を求めて、綿密な観察と周到な思考、そして最新の方法論をもって、診断と治療法の開発へつなげることを教えていきます。

  3. 臨床応用に直結する研究のできる医師

    ノーベル賞を受賞された利根川進博士は著者の中で「一人の科学者の、一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでいたら、本当に大切なことをやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ」と述べておられます。私は臨床医の行う研究は、病気に対する先の見えないぼんやりとした研究ではなく、今、利用可能なすべての情報を総動員して、治療やケアの向上を目指すべきであると思っています。これまでの経験を元に、そのようなトランスレーショナル・リサーチを進められる研究者を育てます。

終わりに
脳神経内科全般に対するGeneralな臨床力をもちつつ、自信を持って周囲から頼られる領域を持っているSpecialistを育てたいと思います。そのために最善と思われる勉強や経験の機会を国内外問わず提供できるよう全力を尽くします。一方で、近年、脳神経内科医におけるバーンアウト(燃え尽き症候群)が、世界的に切実な問題として注目されています。私は自分自身が苦しい状況にある状況で、患者さんを幸せにすることは難しいと思います。ですから教育は厳しく行ないますが、それ以外は自由な雰囲気を作りたいと思います。仲間が精神的、身体的にも充実して、自分の取り組みたいことに挑戦できるよう、全力でサポートいたします。また私の妻は麻酔科医で、共働きをしてきたことから女性医師の大変さや悩みも理解していますので、それぞれに合ったサポートができると思います。神経疾患に一緒に立ち向かう仲間が、岐阜大学に集まることを心より望んでおります。

岐阜大学 大学院 医学系研究科 脳神経内科学分野
下畑 享良