ご挨拶

ご挨拶

私達の目標は、神経疾患の患者さんに最良の診療を提供すること、豊かな人間性と臨床能力を備えた脳神経内科医を育てること、脳神経内科の医療・福祉・保健に関わる皆さまの実践と学習を支援すること、神経疾患の病態の解明と治療法の開発をめざすこと、高齢期最大の問題である認知症と寝たきりに至る病気の予防と治療に取り組むことです。 これらの目標を達成するために、神経内科学をしっかり学ぶ場と学習システムを創り、お互いに切磋琢磨し、多くの皆様と協力しながら、地域と世界に向けて貢献していくことを決意しております。

岐阜大学 大学院
医学系研究科 脳神経内科学分野 教授 下畑 享良

学生、研修医の皆さんへ ―全力で次世代の神経内科医を育てます―

私が神経内科医になったきっかけ
脳神経内科にさほど関心がなかった私が、この道に進んだきっかけは、研修医2年目に、脳神経内科医不在の病院で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんを担当したことでした。その50歳代の女性はALSと診断されないまま、呼吸不全のため救急外来で人工呼吸器が装着されました。その後、ALSの診断を聞かされたその患者さんは、悲嘆に暮れました。未熟な私はその方を支えることができず、患者さんは精神的にも身体的にも回復することができず、さまざまな合併症を併発し、1年ほどしてお亡くなりになりました。その時、私は強烈な無力感に襲われましたが、しばらくして、優れた脳神経内科医であれば何ができたのだろうかと考えました。1年目の研修でお世話になった先輩の脳神経内科医に相談したところ、「神経難病はまだ治癒させることはできないけれど、脳神経内科医にしかできないことはあるんだよ」と言われ、初めて脳神経内科に進むことを真剣に考えるようになりました。のちに先輩医師から聞いたその言葉は、日本の脳神経内科の黎明期を築いた椿忠雄先生の「治らない患者に普通の意味の医学はだめであっても、医療の手は及ばないことはない」というお考えが引き継がれたものであることを知りました。
直面する無力感にいかに取り組むか?
その後、私は脳神経内科医の道を選び、たくさんの患者さんにめぐりあいました。患者さんから多くのことを学びましたが、同時に何度も無力感に襲われました。歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症の女児のどうしても止められないけいれん発作や、多系統萎縮症の患者さんの突然死、脳梗塞患者さんの血栓溶解療法後の合併症による症状の悪化、ブドウ糖注射をしたあとは治療法がない低血糖脳症など数え切れません。ただ私にとって救いになった先輩医師の言葉は「ひとりでは何もできないけど、情熱を持った仲間が3人集まれば、世界に通用し、患者さんに貢献する研究ができる」というものでした。その後、私は仲間を見つけて、無力感を克服するために、これらの問題に対する臨床研究や基礎研究に取り組みました。具体的には、ポリグルタミン病の治療研究、多系統萎縮症の突然死に対する予防法の確立、脳梗塞の新しい治療薬の開発(米国ベンチャー企業を設立)に取り組みました。その過程で、臨床も基礎研究も諦めないこと、情熱をもつことがとても大事であることを学びました。また「患者さんや世の中のために頑張る」という正しい目標を持つことが大切で、そのような努力をするひとを、周囲の人々は見てくれていて、無償の応援をしてくださることを体験しました。
私はどんな神経内科医を育てたいか?

私は以上のような経験を、医学生や若い医師に伝え、神経疾患に立ち向かう仲間を増やすことが何より大切だと思っています。健康に恵まれた私たちは、病で苦しみ、病院に訪れた人を、笑顔で退院していただくため頑張る必要があります。私たちの目指すものは、受診された患者さんが「ここに来てよかった」と思っていただけるようになることです。そのために私が育てたい理想の医師像は以下の3つです。

  1. 共感(empathy)の心を持って、患者さん、家族に寄り添うことのできる医師

    患者さんや家族の気持ちを理解し、寄り添うことが大切だとよく言われますが、そのためにどうしたら良いのかは実は難しい問題です。まず患者さんや家族の考えを想像できる感受性を持ち、患者さんの不安に気づきサポートできる知識や技術を持ち、さらに様々な臨床倫理的問題の考え方や解決法についても理解する必要があります。これらについてしっかり教育してまいりたいと思います。

  2. 臨床能力のすぐれた医師

    いくら患者さんの心に寄り添えても、臨床力が不足していればその価値は半減します。神経診察、解剖学的診断、正しい診断や治療のためのエビデンスの見つけ方、文献の読み方、考え方を徹底的に鍛えます。さらにベッドサイドから臨床研究の端緒を求めて、綿密な観察と周到な思考、そして最新の方法論をもって、診断と治療法の開発へつなげることを教えていきます。

  3. 臨床応用に直結する研究のできる医師

    ノーベル賞を受賞された利根川進博士は著者の中で「一人の科学者の、一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでいたら、本当に大切なことをやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ」と述べておられます。私は臨床医の行う研究は、病気に対する先の見えないぼんやりとした研究ではなく、今、利用可能なすべての情報を総動員して、治療やケアの向上を目指すべきであると思っています。これまでの経験を元に、そのようなトランスレーショナル・リサーチを進められる研究者を育てます。

終わりに
脳神経内科全般に対するGeneralな臨床力をもちつつ、自信を持って周囲から頼られる領域を持っているSpecialistを育てたいと思います。そのために最善と思われる勉強や経験の機会を国内外問わず提供できるよう全力を尽くします。一方で、近年、脳神経内科医におけるバーンアウト(燃え尽き症候群)が、世界的に切実な問題として注目されています。私は自分自身が苦しい状況にある状況で、患者さんを幸せにすることは難しいと思います。ですから教育は厳しく行ないますが、それ以外は自由な雰囲気を作りたいと思います。仲間が精神的、身体的にも充実して、自分の取り組みたいことに挑戦できるよう、全力でサポートいたします。また私の妻は麻酔科医で、共働きをしてきたことから女性医師の大変さや悩みも理解していますので、それぞれに合ったサポートができると思います。神経疾患に一緒に立ち向かう仲間が、岐阜大学に集まることを心より望んでおります。

岐阜大学 大学院 医学系研究科 脳神経内科学分野
下畑 享良

略歴
  • 平成4年 新潟大学医学部医学科卒業
  • 平成6年 新潟大学脳研究所神経内科入局
  • 平成13年 新潟大学大学院医学研究科博士課程(医学)修了
  • 平成16年 米国スタンフォード大学客員講師
  • 平成19年 新潟大学脳研究所神経内科准教授
  • 平成24年 創薬ベンチャー企業ShimoJani LLC(サンフランシスコ)学術顧問
  • 平成29年 岐阜大学神経内科・老年内科教授
資格
  • 日本神経学会 専門医・指導医
  • 日本内科学会 専門医・指導医
  • 日本認知症学会 専門医・指導医
  • 日本頭痛学会 専門医・指導医
  • 日本睡眠学会 睡眠医療認定医
  • 日本臨床倫理学会 臨床倫理認定士
  • 米国神経学会特別フェロー (FAAN)
  • 米国脳卒中学会特別フェロー (FAHA)
主な役職
  • 日本神経学会(理事,将来構想委員会委員,広報委員会委員,キャリア形成促進委員会委員),日本内科学会(理事),日本神経治療学会(理事,編集委員,ガイドライン委員),日本脳循環代謝学会(理事,編集委員),日本脳血管認知症学会(理事),日本神経摂食嚥下・栄養学会(副代表理事),日本難病医療ネットワーク学会(理事,教育委員長),日本脳卒中学会,日本認知症学会(代議員,倫理委員会委員),日本頭痛学会(代議員,ガイドライン委員),日本老年医学会(代議員),日本神経感染学会(評議員)
受賞
  • 第5回有壬記念学術奨励賞
  • 第39回ベルツ賞佳作賞
  • 第20回井上研究奨励賞
  • 第28回日本神経治療学会賞(治療活動賞)
  • 平成23年度日本医師会医学研究奨励賞
  • Significant advance based on animals research award 2011(米国神経学会)
  • 第33回日本神経治療学会会長賞(最優秀賞)

市民の皆様へ

脳神経内科では「脳・脊髄・末梢神経・筋肉の病気」の診断と治療を行っています。具体的な症状としては、「頭痛、めまい、しびれ、手足の動きが悪い、しゃべりにくい、むせる、もの忘れ」などを認める際に、最初に受診していただく間口の広い診療科になります。診療の内容としては、脳卒中、意識障害、けいれん発作、脳炎などの神経系の救急診療から、リハビリ、脳卒中危険因子の管理、生活指導、ケアなど慢性期の診療まで行います。さらにアルツハイマー病のような認知症やいわゆる神経難病(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、重症筋無力症、多発性筋炎等)も担当します。

脳神経外科も同じ脳神経系の病気を診ますが、手術を主な治療法とするのに対して、脳神経内科では内服薬や注射薬、リハビリなど内科的な治療を行います。内科、整形外科、脳神経外科、精神科、耳鼻科、眼科、リハビリ科など多くの専門科と、併診、兼科などを通じて、診療科を超えたチームワークで最良の診断と治療を患者さんに提供して参ります。また、医療・福祉・保健のリンクを常に考え、介護保険、身体障害者手帳、指定難病の申請に関わる診断など社会資源の活用、生活環境の整備も含めて総合的に考えて、患者さんがその人らしく生活ができるように支援して参ります。また市民や医療福祉職を対象にした講演会や研修会を通して、多くの皆様と高齢社会の営みを一緒に考えて参ります。