患者さんへ

腎盂癌・尿管癌

はじめに

腎に発生する悪性腫瘍の内、尿の通り道"尿路"である腎盂から発生する腎盂癌と、尿管癌についてご説明いたします。腎盂癌、尿管癌は泌尿器科癌の中でもまれで、その発生頻度は人口10万人あたり、男性0.1人、女性0.1人程度です。  

腎盂とは、腎の中で、皮質、髄質でつくられた尿が流れるところです。尿は、まず腎盂に入り、ついで尿管という細い管を流れ、膀胱にたまります。そして尿道を通って、体外に排出されます。従って、腎盂粘膜、尿管粘膜、膀胱粘膜、そして後部尿道粘膜はいずれも移行上皮といわれる粘膜から構成されており、これらを尿路上皮と総称します。このうち、腎盂粘膜、尿管粘膜から発生する悪性腫瘍を腎盂癌、尿管癌といいます。両者を一つのグループと考え、上部尿路腫瘍という表現をする場合もあります。治療法にあまり差がなく、腎盂癌、尿管癌をまとめて考える場合が多いのです。

腎盂癌・尿管癌

上は腎を折半した図、
皮質、髄質でつくられた尿が腎盂、尿管を通って膀胱にたまる

腎盂・尿管癌の診断

多くは血尿をきっかけとして診断されます。腎盂癌で進行した場合は先ほどの腎細胞癌との鑑別が難しい場合があります。尿管癌では細い尿管は癌によりせまくなり、上流に尿がたまる水腎症、そこに感染を起こす膿腎症などを呈することもあります。また、はっきりとした腫瘤、狭搾がなく、血尿だけが続く場合もあります。エコー、CT、MRIを駆使しても診断が困難な場合があります。確定診断を得るために、よりいっそうの優れた泌尿器科専門医の知識と技術が要求される癌です。  

膀胱癌では内視鏡検査が診断のための有力な手段となります。しかし、尿管そして腎盂までの上部尿路を詳細に内視鏡で観察検査するためには、専用の細い内視鏡が必要となります。当科では、内視鏡メーカーとタイアップして、最も細くて、解像力の優れた、操作性のよい上部尿路用の内視鏡をもちいて診断を行っています。上部尿路の内視鏡検査には、疼痛対策と検査後の合併症回避を考えて短期の検査入院で行っています。上部尿路の粘膜からの生検か上部尿路から直接採取した尿を用いた尿細胞診で診断を確実なものにしていきます。 診断が確定したあとは、病期を確定させるためにCT, MRI, アイソトープ検査を行います。  

腎盂尿管癌の治療

  1. 腎尿管全摘除術
    腎盂癌・尿管癌の治療の中心は手術療法です。腎盂癌に対して、腎盂のある場所すなわち腎だけを摘除する、尿管癌に対して癌のある尿管だけを摘除するという手術は行いません。腎もしくは尿管だけを摘出しても残った腎臓や尿管に再発することがあり、手術では腎臓から尿管すべてを摘出する必要があります。癌が発生した片側の腎臓、尿管、さらには膀胱壁の一部も含めた腎尿管全摘、膀胱部分切除を施行するのが一般的です。腎臓と腎盂は密接に接触しているため、腎臓全体を摘出することが必要です。
    このとき、開腹で腎・尿管の剥離摘除を行う方法と、腹腔鏡下に行う方法があります。当科では、原則として腹腔鏡下に行う方法を行っています。
  2. 内視鏡下腫瘍切除術
    標準的な治療ではありませんが、腫瘍がごく早期で表在性であると診断できたとき、合併症があり腎の摘出をさけたいときなどには、内視鏡下に腫瘍を摘除術方法も施行されます。これはより高度な技術と専門の器具が必要となります。腫瘍の完全切除を可能にするためにHo-YAG laserを使用することも行います。ただ、標準的な治療法ではなくこの方法で治療する方は、様々条件を考えあわせてということになります。担当の医師によくご相談ください。
    (Ho-YAG laserについては、前立腺肥大症の項もごらんになってみてください)
  3. 抗癌化学療法・放射線療法
    腎盂癌・尿管癌は尿路上皮腫瘍であり、膀胱癌と同様の腫瘍です。抗癌化学療法、放射線療法に対しては膀胱癌と同様・同等の効果を示すものと考えています。  
    また一定の条件を満たす症例に関しては従来の抗癌剤による治療の他に免疫チェックポイント阻害剤(詳しくは腎癌の薬物療法の項をごらんください。)による治療も行っています。