トップ患者さんへ前立腺癌

前立腺癌について

1.前立腺がんとは

前立腺は骨盤の底にあるクルミ大の臓器で、膀胱の出口に存在します(図①)。尿道が前立腺の中央を貫き、精液の一部を作っています。男性ホルモンの影響で増殖します。この性質は癌にもあります。
前立腺がんは文字通り前立腺に発生するがんですが、主に辺縁域に発生します(図②)。50歳以上の方から増加しはじめ、高齢になるほど罹患率が上昇します。また、早期の前立腺がんには特有の症状はありません。一般に前立腺肥大症の好発年齢と前立腺がんの好発年齢とが一致するため、前立腺肥大症の症状をきっかけに前立腺がんが見つかる事がしばしばあります。癌の悪性度を示すグリソンスコア*や進行度が治療方法を選択するために重要です。
*グリソンスコア:前立腺癌の悪性度の指標です。2から10まであり、数値が大きくなるほど悪性度が高くなります。


図①


図②

2. 疫学 

本邦での前立腺癌の死亡数は戦後、一貫して増加してきています。年間死亡数は1960年480人、1970年883人、1980年1736人、1990年3460人、2000年7514人、2002年8105人、2005年9264人、2012年11143人でした(2012年の男性部位別がん死亡数で前立腺がんは第6位)。高齢者に多い癌なので社会の高齢化によって増加していますが、各年代毎の前立腺癌による死亡率も増えてきています。厚生労働省の研究班の報告では、2020-2025年に前立腺がんの罹患数は胃がん、大腸がん、肺がんを超えて第1位になると予想されています(図③)。
前立腺がんの原因として食事の欧米化(特に死亡)が原因ではないかとの仮説があります。また、遺伝因子の関与も指摘されています。親、兄弟に前立腺がんの方がいる場合は前立腺がんの発生率が高くなります。
前立腺がん以外の病気で死亡された男性の前立腺を細かく調べると高率に前立腺がんが見つかります。特に80歳以上の男性では、半数を超える方に前立腺がんがみつかります。高齢男性の多くが前立腺がんを有しており、多くの場合、生涯無症状であることを意味します。これらの内、一部が進行して臨床的ながんになり、さらにその一部が死の原因になります。


図③

3. 検査,診断

前立腺がんが存在すると血液中のPSA(前立腺特異抗原)が高値になります(正常は4ng/mL以下)(図④)。PSA高値を指摘された方、あるいは直腸から挿入した指による触診所見で異常を指摘された方に前立腺生検を行い、組織診断で癌が存在するか否かを診断します。経直腸的あるいは経会陰的に針を刺して組織を採取します。経直腸的前立腺生検の合併症としては2-3%の方に38度以上の高熱を来すこと、0.07%の方に敗血症が発生すること、血尿、血便、血精液症などがあります。しかしながら前立腺癌の確定診断をするためには欠かせない検査です(図⑤)。
前立腺生検でがんと診断された場合、がんの進行度、遠隔転移の有無を確認するためにMRI、CT、骨シンチ検査を行います。前立腺がんの転移しやすい部位はリンパ節、骨です。


図④


図⑤

4.PSA検診

前立腺がんは早期で発見されれば、複数の治療方法があり、根治が望めます。
しかし、遠隔転移を有する前立腺がんの生命予後は不良です。
日本泌尿器科学会では、早期での前立腺がん発見のために50歳以上の男性  にはPSA検診を受ける事をおすすめしています。特に親、兄弟、子に前立腺がんの方がいる場合は前立腺がん発生の危険度が2倍になると言われていますので、より早期にPSA検診を受ける事が推奨されています。
しかしながら、PSA検診にはメリット、デメリットがあります。検診のメリ ットとしては、①転移がんで発見されるリスクが減る、②早期癌で発見され る事が多いため前立腺がんで死亡するリスクが減る事などがあります。一方、 デメリットとしては、①生検による合併症(血尿、血便、発熱、敗血症)、 ②過剰診断と過剰治療(治療不要ながんを発見してしまう可能性)、③根治的治療による生活の質の低下(尿失禁、性機能障害など)、等が考えられます。
PSA検診を受ける場合は上記のメリット、デメリットを考慮した上で受けて下さい。また、PSAが高値であった場合、確定診断のために前立腺生検が必要になる事を了解した上で検診を受けて下さい。

5.病期

  1. 前立腺被膜内にとどまっている場合:T1N0M0、T2 N0M0
    生検によって前立腺癌が証明され、骨シンチ検査で転移がなく、MRIやCT検査上、骨盤内リンパ節の腫大や前立腺被膜外に浸潤する所見を認めない場合を ”前立腺被膜内に限局された癌” と言います。前立腺被膜内に限局された前立腺癌に対する治療には様々な方法があります。年齢、グリソンスコア、PSA値、全身状態なども治療方法の選択に影響を与えます。しかし、最終的には複数の選択肢が残ります。どの治療法をとるかの決定は十分に考えた上で患者さん自身に決めていただく必要があります。
  2. 前立腺被膜外浸潤を有するが遠隔転移を有さない場合:T3N0M0
  3. 精嚢腺以外の隣接臓器へ固定または浸潤しているが遠隔転移を 有さない場合:T4N0M0
  4. 骨転移やリンパ節など遠隔転移を有する場合:TxN1M1

6.治療

1)前立腺被膜内にとどまっている場合:T1N0M0、T2 N0M0

  1. 能動的PSA監視療法 (無治療経過観察)
    早期癌は進行が遅いので人生の残された期間内に進行しない可能性もあります。治療は体に対する侵襲を伴いますが、待機療法では薬の副作用、手術の痛みや合併症の心配はありません。しかし、癌が進行してくるリスクが手術を受ける場合より大きくなるかもしれません。PSA10ng/mL以下、グリソンスコアが6以下でかつ、8ヶ所以上の生検の内、陽性本数が2 本以下であれば待機療法も考慮に値します。経過をみながら治療を開始した方が良いと考えられる状態になった時点で治療を開始します。
  2. 前立腺全摘除術
    早期前立腺癌の病状進行は遅いので根治手術は10年後の生存率を高める 事を目的とします。従って、一般的には75歳を超える方については手術 療法を行う事には十分な相談が必要です。手術は前立腺、精嚢を摘除し、膀胱と尿道を吻合します。骨盤内のリンパ節郭清も同時に行います。開
    腹手術と腹腔鏡手術とがあります。合併症は尿失禁や性機能障害があまります。癒着の強い場合には直腸損傷を起こすことがごくまれにあります。
    勃起のための神経を温存すると勃起能が温存できる可能性がありますが、 根治性を損なう可能性もあります。前立腺全摘除術後にPSAが再上昇した場合(PSA再発)、局所(元前立腺のあった場所)へ放射線照射を行う事が 出来ます(PSAの再低下が期待出来る)。
    手術方法としては、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボットを使用した手 術等があります。基本的に行うことは同じですが使用する道具や手術創の部位、大きさが異なります。

  3. 放射線治療
    a) 外照射療法:前立腺に対する線量を多くし、直腸にできるだけ放射線 がかからない様に患者さん毎に個別に計画をたてて治療を行います。月曜日から金曜日まで週5日間治療し、約2ヶ月かかります。当院では74-78グレイの照射を行っています。1回の治療時間は10分〜15分程度で、外来通院で治療が出来ます。合併症は膀胱刺激症状(頻尿、排尿困難)、放射線性直腸炎(頻便、残便感、出血)、直腸潰瘍、尿失禁、性機能障害などがあります。
    診断時のPSA値やグリソンスコアにもよりますが、通常、半年〜2年間程度、内分泌療法を併用します。治療後にPSAが再上昇した場合(PSA再発)の治療方法が、現時点ではホルモン療法しかないことがデメリットとしてあります。

    b) 組織内照射(小線源療法):前立腺内に放射性物質(ヨウ素125)を含有した長さ約4.5mmの細長いシードを50-80個挿入し、前立腺の組織内から放射線を照射します。診断時のPSA値、グリソンスコア、前立腺の大きさよっては放射線外照射と併用したり、適応外となる場合があります。小線源療法のメリットとしては治療期間が短い、尿失禁の発生がほとんどない、性機能が高率で温存できる、体への負担が少ないことなどがあります。デメリットとしては本邦での長期成績が不明であること、15年以上の長期経過をした際の合併症の有無が不明であること、術後に放射線性尿道炎による一過性の排尿障害(頻尿、排尿困難、尿閉)や放射線性直腸炎(頻便、残便感、出血)が出現すること、治療後にPSAが再上昇した場合(PSA再発)の治療方法が、現時点ではホルモン療法しかないこと、臨床症状は呈しませんが刺入したシードが肺や心臓などに移動する場合があること、などがあります。
    当院では2004年8月から小線源療法を開始し、2014年6月現在で320名以上の患者さんの治療を行いましたが、ほぼ期待通りの経過を辿っています。


    ヨウ素125密封小線源永久挿入療法

    線源

  4. 内分泌療法(ホルモン療法):根治性がないことから前立腺被膜内に限局された前立腺癌に対する治療方法としては世界的には採用されていません。しかし、中には長期間内分泌療法の効果が持続する方もいます。現時点ではどの様な方が長期間効果の持続が期待できるかは不明です。本邦の多くの施設では(特に高齢者に対し)広く実施されている方法なので選択肢の一つです。また、何らかの理由で手術あるいは放射線治療が出来ない方に対しても行われます。男性ホルモンを低下させるか、働きを抑えることで前立腺癌の増殖を抑えることができます。
    しかし、年月が経過すると内分泌療法に抵抗性を持った癌細胞(去勢抵抗性前立腺癌)が再び増殖し、臨床症状を呈する事があります。これを再燃と言います。
    内分泌療法には①去勢術(精巣を手術で摘除)、②LH-RH類似様物質 (注射薬)、③抗男性ホルモン剤(内服薬)、④エストロゲン製剤(内服薬)が あります。①と②は同等の効果があります。
    多くの場合、①と③あるいは②と③を併用します。
    内分泌療法は体への負担が少ない治療ですが、副作用として、性機能障害(インポテンツ)、ほてり・発汗(Hot flush)、体重増加、筋力低下、長期間の治療による骨粗鬆症等が出現します。

2)前立腺被膜外浸潤を有するが遠隔転移有さない場合:T3N0M0

内分泌療法が基本になります。内分泌療法と共に前立腺と骨盤内 のリンパ節へ放射線外照射療法を併用する事も選択肢の一つになります。
内分泌療法後に手術を行うという選択肢もあります。

3)精嚢腺以外の隣接臓器へ固定または浸潤しているが遠隔転移を 有さない場合:T4N0M0

内分泌療法が基本になります。内分泌療法と共に前立腺と小骨盤腔 へ放射線外照射療法を併用する事も選択肢の一つになります。

4)骨転移やリンパ節転移を有する場合   TxN1M1

内分泌療法を行う事になります。治療を行っている間に内分泌療法が無 効になった場合、抗男性ホルモン剤を変更します。その後再び、内分泌療法に抵抗性を持った場合(去勢抵抗性前立腺癌)、エストロゲン製剤を使用したり、タキサン系抗がん剤(点滴)を投与します。タキサン系抗がん剤は進行前立腺癌の生命予後改善に寄与します。タキサン系抗がん剤は外来化学療法室で投与可能です。進行癌では痛みなど様々な問題が起こり えます。骨転移によって痛みが出現した場合、痛みのコントロールが重要になります。痛み をコントロールするために鎮痛剤やビスフォスフォネート製剤を投与したり、痛みの原因となっている転移部に放射線を照射することもあります。