患者さんへ

腎移植

1.腎臓移植

末期腎不全の治療には血液透析、腹膜透析、腎移植があります。それぞれの治療の利点・欠点がありますが、透析治療は一生継続しなければならないこと・腎不全の状態から完全に脱することは出来ないこと等から、腎移植が唯一の根本的な治療と考えられております。当科では1982年に第1例目の移植を行い現在までに350例以上の腎移植を行っております。新病院移転後には附属病院に腎移植外科を開設し腎移植を行っております。腎移植外科では、生体腎移植に関してABO血液型不適合移植、夫婦間移植なども含め積極的に行っており、また、岐阜県内唯一の献腎移植登録施設として献腎移植を行っております。

2.献腎移植

日本臓器移植ネットワークのホームページに詳しく記されています。平成30年12月31日時点で、腎臓移植を希望し、臓器移植ネットワークに登録されている方は、全国で12,150名です。当院では、日本臓器移植ネットワークへの新規登録も行っています。現在の登録後の全国平均待機年数は、約15年と長く、移植を待つ間に移植を受けられる年齢を過ぎてしまうことが多いのが現状です。そのため、透析導入となった方にはなるべく早期の新規登録をお薦めしています。 また、岐阜県では、県内で唯一の腎移植施設である当院を中心として臓器提供を増やすためのドナーアクションプログラム(臓器提供推進プログラム)を推し進めています。 献腎移植登録に関しては岐阜県ジン・アイバンクで登録業務を行い、日本臓器移植ネットワークで管理を行っておりますが、初回登録時の問診、登録後の診察などは当院にて行っております。

3.生体腎移植

臓器の提供が絶対的に少ない現在、献腎移植を希望されても可能性が低く、また待機期間が長期となるため、ご家族の善意による無償の腎提供での生体腎移植が多く行われるようになってきました。現在、国内では年間1600例以上の生体腎移植が行われております。岐阜大学でも毎年、年間20名程度の患者さんが生体腎移植を受けられております。 生体腎移植を行うにあたって、透析を導入している必要性は必ずしもなく、もしドナーがおり、安全に手術が可能な状態であれば、透析を経ないで腎移植をすることも可能です。これを先行的腎移植(preemptive腎移植)と言います。当然、シャントを作成する手間や、腹膜透析カテーテルを留置する手間はなく、それにまつわる入院、手術も必要がありません。さらに、透析を経てからの腎移植よりも先行的腎移植の方が、移植腎生着率、患者生存率が良好といわれています。当院においても透析を経ない先行的腎移植が年々増加してきています。

4.提供者について

実際に腎臓を提供できる方は親族の方で6親等以内の血族、3親等以内の姻族(具体的には父、母、子供、兄弟姉妹、祖父母、おじおば、夫、妻など)に限定しています。また、提供者の年齢に関しても特に基準は設けておりませんが、70歳代の方でも健康な方であれば提供は可能です。手術前に腎機能を十分に評価し適応を判断しており、実際に腎提供を行い腎臓が1つとなっても生活する上での制限はありません。提供者の入院期間は1週間程度です。また提供者の手術代を含めた治療費は移植を受けた方(レシピエント)の保険に請求されるため、基本的に自己負担はありません。 今でも血液型が合わないと移植が出来ないと思っている方が多いのですが、現在は手術の前に血漿交換やリツキシマブ点滴を行うことで、血液型不適合でも腎臓が拒絶されず生着させることが可能となりました。当院では、2002年よりABO血液型不適合移植も行っており、全ての症例で良好な腎機能で生着しております。現在ではABO血液型不適合であっても血液型適合の症例と同等の成績が得られるようになっています。 また、以前は白血球の血液型であるHLAの適合度を重視して移植が行われており、非血縁者である夫婦間での移植はあまり行われておりませんでした。しかし、現在では免疫抑制剤の進歩などによりHLAの適合度による移植成績の差はほとんど無くなっています。また、透析導入年齢の高齢化のため、親からの提供が困難な患者さんが多く、以前に比べてより積極的に夫婦間移植が行われるようになってきました。そして当院でも夫婦間移植が生体腎移植症例全体の約30%にまで増加しています。

5.近年の移植の件数と生着率

岐阜大学では2000年以降、計285例(生体腎移植250例、献腎移植35例)の腎移植が施行されています。近年、拒絶反応を抑える免疫抑制剤は新しい強力な薬剤が普及しており、医療技術の進歩とあいまって、移植成績は飛躍的に向上しております。われわれの施設での移植腎の10年生着率は90%を超えており、腎移植した100人のうち90人以上の腎臓が10年機能していることになります。

6.移植までの流れ

腎移植についてのお話を聞きたい方は当院腎移植外科外来を受診してください。透析施設から予め当院腎移植外科の外来予約を取ることも可能ですので、透析施設のスタッフもしくは主治医の先生にご相談ください。 当科外来受診時は、腎提供予定の方(ドナー)も含めたご家族でお越しください。まず、外来にて腎移植のお話をさせて頂き、腎移植を受けるかどうかをご家族で検討していただきます。実際に移植手術を進めることになりましたら腎提供予定者の腎機能、そして移植を受ける方との組織の相性を調べる検査(組織適合性検査)を行います。以上が問題なければ、腎提供者の安全のためにさらに詳しい腎臓の検査、そして全身の合併症の有無に関して精密検査を行います(これをドナーチェックといいます)。移植を受ける方の検査も整った後に腎移植手術を行うことになりますが、初診からは数ヶ月の期間が通常かかります。すべての検査結果と医師の診察結果を合わせて、移植適応外となるような疾患がないことを確認してから腎移植手術の日時を決定します。

7.入院後の流れ

通常、移植手術の7日前(血液型不適合の場合は14日前)に入院していただき、免疫抑制剤の内服を開始します。

8.手術

腎移植の手術は通常4-5時間程度かかります。手術合併症としては、出血、リンパ嚢腫、腎動脈狭窄、尿管膀胱吻合部狭窄、膀胱尿管逆流などがありますが、再手術等の処置を必要とする合併症を起こす頻度は3%以下です。 提供者の手術は2時間程度を要します。現在は、提供者の術後疼痛などの負担軽減、入院期間短縮等を目的に内視鏡手術を選択しております。

9.術後経過

通常、生体腎移植の場合、移植した直後より多量の尿流出を認めます(通常、献腎移植では手術後も1-2週間は透析を必要とします)。 術後2日目より食事を摂れるようになり、立位も可能となります。術後1週間で尿の管を抜き、自分で排尿することになります。術前より免疫抑制剤を内服しますが、術後も続けて免疫抑制剤を内服する必要があり、血液検査にて薬剤の濃度を調べて投薬量を調節します。術後、特に問題がなければ術後3週間目に移植腎生検を行い、拒絶反応などの異常所見が無ければ退院可能です。 退院後は術後2ヶ月目までは週1回外来受診を要し、3ヶ月時点で問題がなければその後は月2回の診察となり、6カ月を経過した患者さんでは1-2ヶ月に1回の受診ですみます。

10.免疫抑制剤について

免疫抑制剤は腎臓が生着している限り欠かさず内服する必要があり、もしお薬をやめてしまうと腎臓は必ず拒絶されます。

11.拒絶反応について

数年前までは腎移植後の急性拒絶反応は20-50%の症例に発生するとされておりました。しかし、新たな免疫抑制剤の上市により、拒絶反応の発生率は減少し、今では10%程度とされております。 しかし、慢性拒絶反応に関してはメカニズムがまだ完全に解明されておらず、確立された予防法がありません。一部の免疫抑制剤が慢性拒絶反応に対して有効との報告もあります。

12.日常生活について

基本的に食事制限は有りませんが、移植後は味覚も回復しさらにステロイドの作用もあり食欲が亢進するので食べ過ぎに注意する必要があります。また、腎臓の予後を左右する合併症として高血圧症・高脂血症・糖尿病等があり、これらを予防する意味での食事管理は必要となるでしょう。仕事に関しては過労を避けることは必要と考えますが基本的にはどんな仕事でも可能と考えます。

13.妊娠について

透析患者さんでは妊娠の継続・出産は非常に難しく、出産を希望され腎移植を行う患者さんもいます。腎移植後1年経過し、腎機能が良好で一定の条件を満たせば妊娠を許可しております。免疫抑制剤や降圧剤などで変更や中止が必要となる薬もありますが、きちんとした管理をしていれば多くの場合、問題ありません。免疫抑制剤などを内服中でも奇形のリスクは健常者と変わり有りません。当院でもこれまでも11人の腎移植後の出産を経験しております。 腎移植を希望される患者さんは腎移植外科外来を受診してください。

お問い合わせ先 058-230-6000(代表)