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膀胱癌について

はじめに

尿路(腎臓・腎盂,尿管,膀胱,尿道)に発生する悪性腫瘍の中で最も頻度が高いのがこの膀胱腫瘍です.発生のピークは60-70歳で,男女比は約3:1と男性に多く見られます。

膀胱の役割

膀胱は、お腹の下の方にあり、腎臓で作られた尿を溜めておくための臓器です。
膀胱は300~500ml程度の尿をためることができます。
膀胱は平滑筋という筋肉でできており、その筋肉は排尿のとき膀胱を収縮するために働きます。腎盂から尿管、膀胱、前立腺(尿路といいます)の内側は移行上皮という粘膜に覆われています。移行上皮は、膀胱が伸びたり縮んだりするために都合のよい構造になっています。尿が溜まると膀胱はふくらみ、排尿すると膀胱は縮むので、風船のような臓器です。
膀胱癌には2つのタイプがあります。
膀胱癌には、いくつかの組織型がありますが、90%以上の癌は、膀胱上皮から発生する尿路上皮癌です。膀胱癌は、大きく次の2つのタイプにわけられます。

(1) 非筋層浸潤性膀胱癌

悪性度の低い癌で、膀胱の内腔(膀胱の内面)に突出しますが、根は浅く、表面は乳頭状(カリフラワーの様)で狭い茎を持っています。膀胱癌の70%はこのタイプです。内視鏡的に治療できますが、半数以上の患者さんで膀胱内に再発します。癌の深さは粘膜の下に及ぶ場合もありますが、膀胱の筋肉の層には達していません。また、肉眼的に腫瘍が確認できない上皮内癌(Carcinoma in Situ: CIS)と呼ばれるタイプもあります。これは、細胞の顔つきが悪く、また発育が速く、約50%が次に述べる浸潤性膀胱癌に移行しやすいため注意が必要です。

(2) 浸潤性膀胱癌

悪性度が高く、根が深く膀胱壁の深くまで達しており、転移もしやすくなります。このため、内視鏡手術で治療することは難しく、膀胱摘出手術や抗癌剤などの身体に負担のかかる治療が必要になります。

膀胱癌の原因と危険因子について

膀胱癌の確立されたリスク要因は喫煙であり、男性の50%以上、女性の約30%の膀胱癌は、喫煙のために発生するとの試算があります。また、職業性曝露(ばくろ)による、ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルも確立したリスク要因とされています。発展途上国では、ビルハルツ住血吸虫症がリスク 要因である可能性が高いとされています。その他、リスク要因の候補として、フェナセチン含有鎮痛剤、シクロフォスファミド、コーヒー、塩素消毒した飲料水が挙げられていますが、疫学研究では一致した結果は得られていません。

膀胱癌の自覚症状

血尿がもっとも重要な症状です。突然血尿をきたし、痛みを伴わないことが多いです。自然に消失することがあります。特に50歳以上の方では膀胱癌の頻度も高く、一回しか血尿が出なくてもよく調べる必要があります。
頻尿や排尿時の痛みなど、膀胱炎のような症状がでることもあります。膀胱炎を繰り返したり、なかなか膀胱炎が治らないときには泌尿器科を受診されることをお勧めします

膀胱癌の診断

(1) 尿細胞診

尿中に、癌細胞が入っていないかどうかを顕微鏡で検査するものです。必ずしもすべての膀胱癌を診断できるとは限りません。特に、悪性度の低い癌では、尿に癌細胞が落ちてくることは少ないため確実な検査とはいえません。しかし、先に述べた上皮内癌(CIS)では、細胞がはがれやすいため、陽性率は高くなります。

(2) 膀胱内視鏡検査

膀胱内をカメラで観察します。当院では軟性膀胱鏡を使用(胃内視鏡のようなやわらかいカメラ)しておりますので、ほとんど痛みを感じることはありません。この検査は、膀胱内を直接観察するので、最も確実な検査といえます。

(3) 超音波検査(エコー)

この検査は、膀胱に尿を溜めた状態で行います。プローベをお腹にあてるだけですので、患者さんへの負担はほとんどありません。しかし、大きな膀胱癌は検出できますが、小さいものは見落とすことが多いのが欠点です。また、この検査のときには、膀胱だけでなく腎臓も一緒に検査することができます。

(4) CT/MRI

この検査では、体を輪切りにしたような画像を得ることができます。造影剤を使いながら、この検査を行うことで、癌の進達度(膀胱壁のどこまで癌が進展しているか)、リンパ節などへの転移の有無をある程度まで診断できます。この検査によって膀胱癌の治療方針を決めることになります。

膀胱癌の治療

膀胱癌の治療は、非筋層浸潤性膀胱癌と、浸潤性膀胱癌で異なります。

非筋層浸潤性膀胱癌の治療

表在性膀胱癌の治療は、内視鏡手術が第一選択となります。内視鏡についた電気メスで、膀胱内にできた腫瘍を図のように切除します。この手術は治療手段であると同時に、確定診断の意味でも重要です。この治療が可能なのは、腫瘍が小さいこと、腫瘍の根が膀胱の筋層まで入りこんでいないこと、腫瘍の数が多すぎないことです。

術翌日には普通の状態にもどることが可能で、約1週間の入院で治療が可能です。しかし、この方法で一度癌を切除したとしても、再発率が70~80%と高率のため、手術後も定期的に受診していただき、膀胱内視鏡検査で再発の有無を確認する必要があります。再発を繰り返し、浸潤性膀胱癌に至ることがあります。

また、患者さんによっては、再発予防のため膀胱内に抗癌剤を注入することがあります。

膀胱内注入療法について

表在性膀胱癌治療の問題点として再発率が高いことが挙げられます。再発を予防するため内視鏡手術後に抗癌剤を膀胱内注入することがあります。方法は、尿道からカテーテルという管を膀胱まで挿入して、その管から薬液を膀胱内注入し、しばらく膀胱内に薬を溜めてもらいます。

この方法では、ある程度の再発予防効果が期待できますが、いまだに完全なものではありません。

膀胱内注入する薬剤のひとつに、BCG(弱毒化した結核菌)という薬があります。これは、特に上皮内癌(CIS)に非常に有効な薬剤であり、抗腫瘍効果と再発予防効果における有効性が確立されています。しかし、膀胱刺激症状・発熱・感染症など副作用もあるため慎重に使用しています。

浸潤性膀胱癌の治療

膀胱癌が巨大なもの、浸潤型であり悪性度のきわめて高いものでは、膀胱を全部摘出する方法がとられることが多いです。周術期の化学療法として術前のGC療法などシスプラチンを中心とした多剤併用 療法の有効性が指摘されているため、当院では基本的に術前に抗癌剤治療を行っています。

膀胱摘出手術と尿路変更術

膀胱摘出手術は、男性では、前立腺も含めて摘出するのが普通で、場合によっては尿道まで摘出することもあります。女性では、尿道も含めて摘除し、子宮、卵巣の合併切除を行うことが多いです。また膀胱摘出のときには、骨盤内のリンパ節もとります(リンパ節郭清といいます)。

膀胱摘出後は、尿を体外へ出すために尿路変更術が必要になります。尿路変向あるいは再建術が癌の制御に影響することはないとされており、その選択は患者さんと十分に相談した上で決定します。以下に各尿路変更術の特徴を示します。

  1. 尿管皮膚ろう
    尿管の断端をそのまま皮膚に開口させる方法で、ストーマができるためパウチと呼ばれる尿を溜める装具を皮膚に貼り付ける必要があります。高齢者や合併症のため複雑な尿路変更ができないときに行います。

    【摘出範囲】
    男性                 女性


    【皮膚切開とストマ】
    片側尿管皮膚瘻            
    両側尿管皮膚


  2. 回腸導管
    小腸(回腸)の一部を、導管として使う方法です。腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します尿はストーマから流れているため、パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります。手術手技が比較的簡単であることと合併症が少ないことから、古くからある方法です。

    皮膚切開とストマ

  3. 自然排尿型代用膀胱
    小腸で作成した膀胱を尿道に吻合してつくります。この方法では、自然に尿道から排尿できるのが特徴です。手術は複雑になりますが、術後はストーマがなく尿を溜める装具を身体につける必要がないために、患者さんのQOL(生活の質)は非常によいものです。
    しかし、本来の尿意がなくなるため時間を決めて排尿することが必要になります。また尿失禁が持続したり、逆に尿の排出障害が起こり、自己導尿が必要になることがあります。膀胱癌の種類によって適応外になることがあります。

化学療法について

浸潤性膀胱癌の患者さんでは、膀胱摘出手術後に補助療法として抗癌剤による治療を追加することがあります。GC療法と呼ばれる方法が一般的で、シスプラチン(様々な癌の治療に使われている薬です)とジェムシタビンを組み合わせて使用します。

化学療法は効果もありますが、その反面、副作用がでるため、入院での治療が必要です。GC療法は、癌が進行しており手術が難しいときにまず最初に行うこともあり、これにより手術が可能になることもあります。 
主な合併症として吐き気、嘔吐、脱毛、白血球減少、血小板減少、腎機能の低下、末梢神経障害などがあります。腎機能障害、末梢神経障害などは化学療法終了後も残ることがありますが、他は化学療法施行中の問題であり化学療法の終了とともにほとんど問題とならなくなります。また、最近は優れた吐き気止めの薬があり、また白血球を増やすような注射もあり、かなり安全に行える治療となっており、ほとんどの場合化学療法終了後、それまでと変わらない生活を送れます。

放射線療法について

放射線には癌細胞を死滅させる効果があるので、癌を治すため、または癌により引きおこされる症状をコントロールするために使われます。放射線治療の適応となるものは基本的に浸潤性の膀胱癌です。ただし世界的にみて放射線療法の標準化がされていないため、膀胱全摘出術と治療成績の差は明らかにはされていません。また、病巣周囲の正常組織にも放射線の影響が及ぶため、膀胱が萎縮し尿が近くなったり、直腸より出血したり、皮膚のただれが生じることがあります。ほか、転移した病変のコントロールに放射線治療が選択されることがあります。また、全身状態から手術療法が困難な場合にも放射線療法を考慮します。

生存率について

表在性の膀胱癌では、致命的になることはまれです。ただし、前にも述べたように、この癌は膀胱内に多発すること、何度も再発することが特徴ですので、 定期的に膀胱内を観察していかなければなりません。また、ときに再発を繰り返すうちに、浸潤性の癌へと癌の性質が変化することがありますので、注意が必要です。また、浸潤性膀胱癌で手術を行った場合、だいたいの5年生存率はT1で95%、T2で80%、T3で40%、T4で25%程度です。近年、化 学療法なども進歩してきており、今後これらの成績も向上していくものと思われます。また、これらの数値はたくさんの患者さんの平均的な統計学的数値であり、あくまでその傾向を示すもので、個々の患者さんにあてはまるものではありません。