患者さんへ

副腎疾患

副腎

あまり聞き慣れない臓器かと思いますが、腎の頭側に存在する通常2~3cmの小さな臓器で、右は肝臓の後内側に、左は胃の後内側にあります。両側とも腎臓に接して上方に存在することからこの名前がありますが、その働きは腎とは全く違います。 その働きの主なものは内分泌臓器として、体の種々の指令のもと、さまざまな物質"ホルモン"を分泌し、体の恒常性(こうじょうせい:ある一定のバランスを保つこと)や血糖、血圧の調節を行うことです。副腎の中の細胞の一部が勝手に増殖し腫瘍を形成した状態を副腎腫瘍と言います。正常でも副腎の中には役割の異なった多くの細胞がありますので、増殖した細胞の性質によって症状が異なってきます。そして過剰になるホルモンの種類によって症状や病態が異なるため、それぞれに病名がついています。
最近、人間ドックや他の疾患の検査中にたまたま見つかることが増えていますが、この場合は多くが症状のないホルモン非活性腫瘍です。診断では、副腎の画像検査(CT検査など)が行われます。その時に副腎に腫瘍が見つかりますと、その腫瘍によって症状をおこしている可能性が高くなります。ただ、確定診断にはさらに詳しい検査を必要とすることもあります。岐阜大学病院では、糖尿病・内分泌内科をはじめとした内科、放射線科などと共同して診断に当たり、確かな診断を心がけています。

原発性アルドステロン症 Primary aldosteronism

副腎皮質ホルモンのひとつであるアルドステロンが過剰に産生されて引き起こされる疾患で、症状は、高血圧、低カリウム血症による尿量の増加や筋力低下、四肢麻痺などがあります。実際高血圧症と診断されている方の5~6%はこの原発性アルドステロン症が原因と言われており、長い間アルドステロン過剰の状態が続くと、脳や心臓、血管、腎臓などの臓器に悪影響を及ぼすことがあるとされています。
治療はアルドステロンを過剰に分泌している副腎を摘出することですが、年齢などにより術後も降圧剤が必要になる場合もあります。

クッシング症候群 Cushing syndrome

副腎皮質ホルモンのひとつであるコルチゾールが過剰に産生されて引き起こされる疾患で、顔が丸くなる(満月様顔貌)、ニキビが増える、首の後ろや背中が盛り上がる、体幹に脂肪がつく(中心性肥満)、毛深くなるなどの症状が目立つようになります。また高血圧、糖尿病、骨粗しょう症などをおこします。 治療はコルチゾールを過剰分泌している副腎を摘出することと、ステロイドホルモンの補充療法を行います。

褐色細胞腫 Pheochromocytoma

副腎髄質から分泌されるホルモンであるアドレナリン、ノルアドレナリンが過剰に産生されて引き起こされる疾患で、高血圧や高血糖になります。頭痛、動悸、汗を多量にかく、体重減少、頻脈などの症状が特徴です。これらの病態や症状がいつも続くのではなく、発作的に出ることがあります。家族性、両側性、副腎外性、悪性が約10%存在します。
治療法としては、薬物による治療もありますが、薬物療法では血圧のコントロールが困難な場合が多く、根治的には手術が必要です。手術に際しては過剰なホルモンにより末梢血管が収縮し、循環血液量が減少しているため、術前に薬物で血圧と循環血液量を十分にコントロールしてから腫瘍を切除します。

副腎皮質癌 Adrenocortical carcinoma

特徴的な症状はないが、機能性副腎皮質癌の場合には副腎皮質ホルモンが多量に分泌されるためクッシング症候群の症状や、女性の場合は男性化症状がみられることもあります。外科的切除が根治的治療法です。
根治切除が困難であったり、多臓器への転移巣がある場合には薬物療法を行う場合があります。

副腎腫瘍の治療

上述のようにホルモン活性腫瘍のときは、高血圧などは、お薬で対応できるものもありますが、経過とともに血圧がさらに高くなり、必要なお薬が増えていきます。高血圧が進むと、網膜症、腎症、動脈硬化を引き起こし、副腎自体を治療しても血圧が下がらなかったり、臓器障害が残存することがあります。診断が確定した時点で、腫瘍を含めた患側の副腎全摘除術をおすすめしています。ホルモン非活性腫瘍のときは、その大きさから判断します。3cm以下のときは、定期的な画像診断を継続することをおすすめしています。4cmを超えるときは、副腎悪性腫瘍の可能性が高くなり、手術をおすすめしています。手術方法には、皮膚を大きく切開して副腎を摘出する開腹による方法と腹腔鏡を用いた方法があります。腹腔鏡手術は、副腎に対しては保険診療でも認められた手術方法です。当科では、1998年以来腹腔鏡下副腎摘除術を導入して施行しており、様々な副腎腫瘍・副腎疾患に対してこの手術方法を施行してきました。技術の進歩により腹腔鏡下副腎摘除術が安全に行われるようになり、岐阜大学病院泌尿器科では重大な合併症の経験はありません。