概要

現状と課題

現状と課題 10号

「現状と課題」10号

3年ごとに発刊している「現状と課題」の10号を纏めることができた。対象期間は2015年1月~2017年12月の3年間である。教育・研究・診療活動の状況をそれぞれの分野・診療科で活動状況を纏め、問題点を分析し、それに対する対策を講じるということは、組織の発展にとってきわめて重要である。
この3年間、医学・医療の世界では大きな進展があった。がん治療の世界では、様々な分子標的薬が出てきたこと、抗体医療が開始されたこと等が上げられる。特筆すべきはPD-1抗体を利用した癌治療が国内で開始されたことであろう。従来の治療法では効果が得られなかった癌に対しても効果が得られることから、国民の期待は大きい。一方で薬価がかなり高額であることから、国民皆保険の我が国の場合、財政が破綻することも懸念されることから、厳重な適応の決定が必要になってくる。この治療法については日本人の業績、すなわち本庶佑京都大学名誉教授の業績から生まれたことから、医学・医療に携わるものにとっては大きな励みとなる。山中伸弥教授のノーベル賞受賞以来、iPS細胞研究はさらに拍車がかかっている。臨床応用に大きな障壁となっていた癌化の問題が、様々な工夫により解決されようとしている。程なく、iPS細胞を用いた臨床試験が開始されることになると考えられている。
国立大学に対する国の施策が大きく変わってきている。これは2012年に各国立大学にミッションの再定義を求めたことに端を発する。すなわち文科省が財務省(ないしは財界)から国立大学の存在意義と地域における役割を明確に示すよう課題をつきつけられたもので、文科省から各大学に再定義を提出するように求められた。また、2013年からは大学の改革推進の一環として、学長ガバナンス強化が強調され、実際学校教育法と国立大学法人法が改正され、2015年4月に施行された。一方で、文科省は全国の86国立大学を3つのグループに分けてそれぞれの特色を出させようとしている。すなわち、これまでの大学規模に応じて配分されていた運営費交付金に競争原理を導入するものである。さらに研究費の面においても改革案が打ち出された。文科省、厚労省、経産省の医学研究に関する研究予算を一本化し、総務省 が管轄する「日本医療研究開発機構 (AMED)」が2015年4月に発足した。AMEDの予算は大型プロジェクト型の研究であり、比較的短期間で臨床応用につながる研究が主体である。一方、従来の文科省科研費の予算は漸減傾向にあり 、以前に比べると獲得が困難になっている傾向がある。この研究予算は、プロジェクト型ではなく、自由な発想に基づく研究を支援するものであり、すぐには実用化にはつながらないかも知れないが、長い目で見れば、大きな成果につながるような研究が成される可能性があるため、むしろ、このような予算も切り捨てることなく、幅広く研究者に配分していただけるような配慮をお願いしたいと思っている。このような長期間継続できる研究から将来ノーベル賞につながるような研究が出てくる可能性がある。長期的な視点に立った予算配分をお願いしたいものである。
基礎研究については、ノーベル賞を受賞した大隅良典先生、大村智先生のお二人が、インタビューで最初に口にした言葉は、このままでは日本の基礎医学が弱体化してしまうので、何とかしなければいけないというお話であった。基礎研究に対する予算配分が極めて厳しい状況にあることを物語っているものであり、ノーベル賞を輩出している科学立国の日本が今後どのようになっていくのか心配である。
医学教育は、グローバルスタンダード化が一段と進んでいる。わが国では、平成27年12月1日に日本医学教育評価機構(JACME)が設立された。これは世界医学教育機構(WFME)に代わって国内の医学教育を評価する機能を有することを目的とした機構である。岐阜大学医学部医学科では、JACME設立直後の平成2015年12月に文部科学省大学改革推進事業「国際基準に対応した医学教育認証制度の確立」事業に基づく医学教育分野別評価試行を受審した。2016年6月に受理した外部評価報告書の評価結果は概ね良好なものであったが、医学教育IR(Institutional Research)を設置し、医学教育の質の向上を図るようにとの指摘があったため、2016年12月には医学教育IR室を設置した。2017年3月18日にJACMEがWFMEから国際的に通用する医学教育評価機関として認証され、岐阜大学医学部医学科は認定判定の結果、2018年12月 に正式に認定された。
附属病院に関しては、様々な改善の取り組みがなされた結果、各診療科の努力もあり、赤字をかなり圧縮できているようである。経営収支にはさまざまな要素が関与するが、病院長以下職員全員が一丸となって病院経営改善に取り組むことが必要である。国内の医師不足対策としては2008年から医学部定員増加策が採られており、入学定員は9,000人を超し、すでに1,500人余りが増加したことになる。そのほとんどは地域枠定員であり、各自治体が修学資金を貸与して卒後11年間を地域医療での活躍が期待されている。岐阜大学医学部における地域枠定員は28名で、そのうち15名の定員については、本来、平成29年度で終了することになっていたが、平成31年度まで継続していただけることになった。地域医療医学センターが地域医療実習を調整している。また、岐阜県医師育成確保コンソーシアムを組織し、地域枠学生が夢を持ってキャリアを積めるように支援をしている。今後、地域枠出身の医師の増加が見込まれ、地域医療にたずさわる医師数は増加し充実してくると期待されている。地域医療医学センターでは、女性医師の支援活動も県医師会との協力体制のもと、地道な取り組みを行っている。
最後に膨大なデータを冊子に纏められた自己評価委員会に敬意を表する。岐阜大学医学部と附属病院が今後さらに発展していくための資料として活用されることを願っている。
 
岐阜大学大学院医学系研究科長・医学部長 湊口 信也
(現状と課題 第10号 序文より)

「現状と課題」10号


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