VOICE~岐大医学部から~
呼吸器内科学分野からのメッセージ
医学系研究科 内科学講座
呼吸器内科学分野
教授 津端 由佳里 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第136回は、令和7年2月に就任されました、医学系研究科 内科学講座 呼吸器内科学分野 教授 津端 由佳里 先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
薬学部を卒業後、製薬会社の研究職に就きました。新薬の開発は学びの多い仕事でしたが、次第に自分の仕事がどう社会に役立っているのかと考えるようになりました。そんな時、ふと自分がもっと患者さんと直接向き合う仕事をしたいと考えていることに気が付き、医師を目指す決意をしました。当時、学士編入学は狭き門であり勉強は大変でしたが、人生で最も真剣に取り組んだ時間でした(医師国家試験以上に)。医学部に入ってからは、がん患者さんが自ら署名を集め、厚労省へ提出したことがきっかけで「がん対策基本法」が成立したことを知り、がん診療に興味を持ち腫瘍内科医を志すようになりました。がんの薬物療法は、副作用が避けられない抗がん剤を扱う分野であり、高い精度のEBM(Evidence-Based Medicine)が求められ、その専門性の高さに魅力を感じています。現在専門としている肺がん治療は、個別化医療の最先端を走る領域です。患者さんと共に最適な治療を考えていく---- そのプロセスに、大きなやりがいを感じています。
現在研究している内容について
がん患者さんのトータルケア向上を目指した臨床研究に取り組んでいます。特に腫瘍循環器領域のエビデンス構築に着目し、2016年から肺がん患者の血栓塞栓症発症率に関する観察研究(Rising-VTE study)を研究代表として実施しました。この研究では、日本人のIV期肺がん患者におけるVTE発症率を報告するとともに、VTEリスクを予測するスコア(Rising score)を作成し、現在も実臨床で使用されています。また、2019年からはAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の支援を受け、高齢がん患者を対象とした臨床試験および診療体制の基盤整備に関する研究(ENSURE-GA study, ENSURE-GA2 study)を継続しています。この研究を通じて国内の高齢がん患者の診療体制の充実を図るとともに、各国の老年腫瘍学領域のリーダーと情報交換を行いながら、国際共同研究を進めています。岐阜大学でも各診療科の先生方とコラボレーションさせていただきながら本研究を発展させたいと考えています。
呼吸器内科学分野教授としての抱負
呼吸器内科学は、肺がん診療に限らず、気管支喘息、COPD、間質性肺疾患、感染症など多彩な疾患を取り扱う分野です。「おぎゃー」と声を上げ呼吸を開始するところから人生が始まり、最期は「息を引き取る」と言われるように、「呼吸すること」は人間にとって非常に身近かつ重要な機能です。さらに高齢化を背景に、呼吸器内科医の需要はますます高まっています。私の使命は、まず呼吸器内科を志望する若手医師を増やすこと、そしてその医師に対する教育体制の充実と働きやすい医局環境を整えることです。医学生や若手医師の背景や価値観は多様化しており、患者さんだけでなく医局員への対応も個別化が求められます。一人ひとりが自分らしい医師人生を歩めるよう、明るく活気のある医局を築いていきたいと考えています。
医師を目指す学生へのメッセージ
医師という職業は、患者さんの命を守り、心に寄り添う仕事です。私は「脱サラ医師」ですが、現在はがん治療に携わる中で医師が果たす重要な役割を実感しています。特に呼吸器内科は、肺がんや気管支喘息、COPDなど多彩な疾患を扱い、「呼吸すること」という生命の根本に関わる非常にやりがいのある分野です。呼吸器内科医としては、疾患の早期発見や最新の治療法を提供しながら、患者さんとの信頼関係を築くことが求められます。医学生の皆さんも、呼吸器内科の面白さに触れ、命に寄り添いながら、自分自身の医師人生を大切にして欲しいと思います。どんな環境でも自分らしく成長できるよう、多くの出会いを通じて突き進んでください。
略歴
1993年 3月 | 北里大学薬学部薬学科 卒業 |
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1995年 3月 | 北里大学薬学部薬学研究科 修了 |
2007年 3月 | 島根医科大学医学部医学科 卒業 |
2008年 4月 | 島根大学医学研究科博士課程 腫瘍専門医育成コース入学 |
2012年 6月 | 島根大学医学研究科博士課程 腫瘍専門医育成コース 修了 |
2007年 4月 | 島根大学医学部附属病院 初期臨床研修医 |
2009年 4月 | 島根大学医学部附属病院 呼吸器・化学療法内科 医科医員 |
2011年 4月 | 国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 レジデント |
2011年 10月 | 島根大学医学部附属病院 呼吸器・化学療法内科 医科医員 |
2012年 8月 | 島根大学医学部内科学講座 呼吸器・臨床腫瘍学 助教 |
2016年 4月 | 島根大学医学部附属病院 呼吸器・化学療法内科 講師 |
2021年 8月 | 米国ロチェスター大学 留学 |
2021年 8月 | 島根大学医学部附属病院 呼吸器・化学療法内科 診療教授 |
2025年 2月 | 岐阜大学大学院医学系研究科 呼吸器内科学分野 教授 |