お問い合わせ

レジオネラ属菌について
知っていますか?

わたしたちのすぐそばに。
レジオネラは人の生活圏と重なって
広く分布しています。

レジオネラ症って?

レジオネラ・ニューモフィラを代表とする、レジオネラ属菌に感染することによって起こる病気のことです。
レジオネラ属菌に感染して起こる症状には大きく分けて二つの型(病型)があります。
一つは軽症(非肺炎型)のポンティアック熱、もう一つは重症のレジオネラ肺炎です。
レジオネラ肺炎の場合、潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は2~10日(平均4~5日)で、
38℃以上の高熱や、咳、呼吸困難(息苦しさ)、頭痛、筋肉痛などの症状がみられます。

意識障害や手足の震え、下痢もみられるのがレジオネラ肺炎の特徴で、適切に治療をしないと死亡するケースもあります。

レジオネラ感染経路とレジオネラ肺炎のおもな症状

レジオネラ属菌について

どこにいるの?

あそこにもここにも!

レジオネラ属菌は、湿った土壌中や河川、湖沼、温泉などの淡水環境中に広く生息しています。アメーバなどの原生生物に寄生し、その中で増殖した後、宿主を破壊してまわりの水中に出てきます。20~45℃で増殖し、最も適した温度は36℃前後です。人工的なクーリングタワーや循環式浴槽等では、水が滞留しやすく、レジオネラ属菌が繁殖しやすい環境にあるため衛生管理が重要です。

レジオネラ属菌の生息場所

感染経路は?

どこから?

衛生管理が不十分なクーリングタワーの冷却水や循環式浴槽の湯などで増殖したレジオネラ属菌が、エアロゾル(細かい霧やしぶき)に含まれた状態で飛散し、それを吸入することによって感染します。

ヒトからヒトへ感染することはないと考えられています。

レジオネラ属菌の感染経路

体内での増え方

どのように?

細胞内寄生性を示すことがレジオネラ属菌の大きな特徴です。すなわち肺に吸い込まれたレジオネラ属菌は、肺胞マクロファージ(白血球の一種である単球由来の細胞で、異物を取り込み肺の内側を清掃する細胞)に感染しその中で寄生・増殖し、肺炎を起こします。

レジオネラ属菌は300種類以上のエフェクターと呼ばれるタンパク質を宿主細胞(寄生した細胞)中へ分泌し、宿主細胞のシステムを巧妙に乗っ取り、レジオネラ属菌が宿主細胞内で生存・増殖できる環境を作り出すことがわかってきています。

ヒトの細胞の中で増殖するレジオネラ
ヒトの細胞(核を青色で染色)の中で増殖するレジオネラ(緑色)

column 在郷軍人会のコンベンションで起きた集団感染

レジオネラが病原菌であるという認識になったのは、1976年にアメリカのフィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人会コンベンション参加者の多くが原因不明の重症呼吸器疾患になった事件がきっかけです。その原因を探っていくと、ホテルの空調設備が、その時初めて見つかった「レジオネラ」という細菌で汚染されていて、そこから空気中に放出されたレジオネラで汚染されたエアロゾルをヒトが吸い込むことで感染し、治療しないと死に至るような重篤な肺炎を発症させていたことがわかりました。

このことで初めて、レジオネラはヒトに対して病原性があるということが明らかになったのです。

レジオネラ研究

岐阜大学大学院医学系研究科・生命関係学講座・病原体制御学分野の
レジオネラ研究について、
永井宏樹教授の研究室でお話を伺いました。

インタビュアー
角谷貴 学生研究員
久米翔太 学生研究員

「エフェクター」とは?

これまで行われた研究の非常に大きな功績のひとつは、レジオネラが感染時に出す「エフェクター」というタンパク質を、世界で初めて発見されたこと、と伺っています。「エフェクター」とはどういうものでしょうか?

レジオネラは細胞に侵入して増殖する

エフェクターの説明の前にまずエフェクター発見以前のことをお話しすると、病原菌がヒトに何かの病気を引き起こすメカニズムとしてよく知られていたのは「細菌毒素」でした。細菌毒素とは、「病原菌から一旦外界に放出される細菌由来のタンパク質性の物質」で、これがヒトの細胞に入り込み悪さをします。その存在は古くから知られており、例えば、乳幼児に打つ4種混合ワクチンの中には百日咳毒素やジフテリア毒素由来の抗原が含まれています。

細菌毒素は非常に昔から知られていましたが、細菌感染現象の分子生物学的な研究がだんだん進んでくると、「どうもそれだけでは細菌感染現象は説明できない」ということがわかって来ました。細菌毒素以外に、細菌が宿主細胞に直接コンタクトすることにより、細菌から直接宿主細胞中に打ち込まれる細菌由来のタンパク質性の因子があるということがわかり始めました。それらの因子に対して、細菌毒素と区別するために「エフェクター」という名前が付けられました。

ではレジオネラが感染時に出す「エフェクター」とはどういうものなのでしょうか?

4型分泌系 (the type IV secretion system, T4SS) によって輸送されるエフェクタータンパク質群の働きはレジオネラ増殖の要である

我々がレジオネラの研究をはじめた2000年前後には、ペスト菌やサルモネラなどが「III型分泌装置(※1)」というタイプの分泌装置を持っており、これにより宿主細胞へ輸送されて、宿主細胞内機能をハイジャックする因子として、エフェクターという概念が明らかにされていました。私は1999年にアメリカに留学してレジオネラ研究を始めましたが、レジオネラはIII型分泌装置とは少し違う分泌装置を持っていることはわかっていたのですが、エフェクターについてはまだ全くわかっていませんでした。エフェクターの探索というのは非常にわかりやすいテーマということもあり、これに着手しました。幸運にもレジオネラで最初にエフェクターを見つけることができたのですが(※2)、このことにより、IV型分泌装置を持つレジオネラも、III型分泌装置を持つサルモネラやペスト菌などと同じようなスキームで、エフェクターを使って宿主をハイジャックしていると証明できました。

(※1)注射針のような構造をしたタンパク質の分泌装置であり、細菌のなかでつくられた多種多様なエフェクターとよばれるタンパク質を宿主細胞のなかに射ち込むはたらきをもっている
(※2)Nagai H et al., Science. 2002 Jan 25;295(5555):679-82.
     doi: 10.1126/science.1067025.

「メタエフェクター」の発見

最近ではメタエフェクターというものを発見されたと伺っています。メタエフェクターとはどのようなものなのか、またメタエフェクターを見つけるまでの経緯についても教えてください。

エフェクターは当然あると思っていましたが、始めは見つからずとても苦労しました。しかし、最初の一つが見つかればそれを突破口にして、他のグループからもどんどんと発見の報告がでてくるようになりました。そして驚くことに、今度は逆に、非常に多数のエフェクターを持っているのではないか、ということがわかってきました。レジオネラは3,000くらいのORF(※3)を持っていますが、そのうちの1割以上にあたる300以上がエフェクターをコードしていると考えられており、他の病原菌と比べると桁違いに多いことが今ではわかっています。

メタエフェクターの発見
メタエフェクター LubX による SidH への作用

すると今度は、なんでそんなに多いのだろうか、という疑問をもつようになりました。最初にメタエフェクターであることが判明したLubXというタンパク質についても、最初の論文では宿主の因子を標的とする普通のエフェクターとして報告しました。エフェクターを標的とするエフェクター(メタエフェクター)という考えに至った最初のきっかけは、トランスロケーションアッセイ(※4)であったと思います。1つの標的に対してプラスとマイナスの機能を持った一対のエフェクターというものの存在はそれまでに知られており、しかもそれらが隣同士の遺伝子にコードされているということが多くありました。LubXをコードする遺伝子の隣にもSidHという大きなエフェクターをコードする遺伝子があったことで、トランスロケーションアッセイによりSidHの動態を調べてみようと思った記憶があります。それで実際やってみると、ユビキチンリガーゼ活性を持つLubXによりSidHがユビキチン化(※5)され、プロテオソーム依存的に分解される、つまりLubXはSidHを時間的に調節する制御因子として機能している、という考え方にたどり着いたのです(※6)

(※3)タンパク質へと転写・翻訳される可能性のあるDNA配列
(※4)エフェクターが宿主細胞内へ輸送されていることを示す方法の一つ
(※5)タンパク質修飾の一種。タンパク質の分解の他、さまざまな生命現象に関わることが知られている
(※6)Kubori T et al., PLoS Pathog. 2010 Dec 2;6(12):e1001216.
     doi: 10.1371/journal.ppat.1001216.

それまでのエフェクターの定義というのは「細菌がコードしている機能性のタンパク質で、宿主因子を標的にする」というものでしたが、その定義には明らかに当てはまりませんでした。「メタ」という言葉は「階層構造の上層に」、「一歩外へ出る」という意味があり、エフェクターを標的としていたので「メタエフェクター」という名前をつけました。エフェクター同士でピラミッドのような階層構造をつくっているという概念が、そこで初めて出てきました。

今後の研究計画について

今後の研究計画について教えてください。

レジオネラのエフェクターがたくさんあるというお話をしましたが、それらを研究してわかってきた興味深い特徴のひとつは、今まで人類の誰も知らなかった新たな生化学反応が見つかってくるということです。その代表例が「ユビキチン化」です。私達人類のような真核細胞はユビキチンという小さなタンパク質をタグのような形で、標的タンパク質にくっつけます。ユビキチン化されたタンパク質は分解されたり、あるいはオートファジー(※7)によって消化されたりすることが知られています。教科書的にはよく知られたユビキチン化経路というものがあるのですが、レジオネラからはそれと異なる全く新しい生化学反応で標的をユビキチン化する経路がいくつか見つかってきており、それに関わる研究もしています。

なぜ、レジオネラがこのようなことをするのかはわかっていません。考えられる仮説のひとつは、身体が外から入ってくる病原体に対抗する手段を無効化するのに関係しているというものです。外界から侵入する病原微生物を標的とするゼノファジーというタイプのオートファジーがあるのですが、その際にユビキチンが目じるしになります。レジオネラは、宿主細胞に入った際に膜に囲われた液胞のかたちで存在していますが、その表面がなぜかユビキチン化されています。なぜこれでオートファジーに食われないのか、わかっていません。レジオネラが行っている異常なユビキチン化は、オートファジーシグナルとしてのユビキチンの機能を失わせているのかもしれません。

このように、レジオネラを研究しているとこれまで知られていなかった新しい生化学反応が発見されてきます。これを1つの切り口に、全生物に共通する新規な生命現象を見つけられたらいいなと考えています。

(※7)細胞自身が持つ、細胞内の不要なたんぱく質や侵入した病原菌を認識・分解するシステムのこと

レジオネラ研究は、今後社会にどのような影響を与えると思いますか?

我々のような研究によって、病原微生物感染による病原性のメカニズムを明らかにすることができれば、新規の抗菌薬、薬剤を開発するためのターゲットを見いだすことができると思います。将来的にはコロナウイルスのように、新たな病原菌や病原体が出現した時にも使えるような治療戦略や、薬剤の開発に繋がっていくのではないか、そういう風に発展していけたらいいなという想いがあります。

研究者について

永井 宏樹教授

レジオネラのスペシャリスト

岐阜大学大学院医学系研究科 生命関係学講座
病原体制御学分野 教授
永井 宏樹先生

Q. レジオネラ研究をしていて思うことを教えてください。

研究していてつくづく感じることは、人間の考えることはたかが知れており、病原菌のほうがよっぽど賢いということです。病原菌は私たちにいろいろなことを教えてくれるので、その病原菌が教えてくれることを聞き逃さないように心がける姿勢で研究をしています。

Q. 学生、研究者を目指す方につたえたいことはありますか?

第一には、知的好奇心を持つことが大事ということです。皆さん勉強のしすぎなのかもしれないですね(笑)。教科書に書いてあることで間違っていることは往々にしてあるので、教科書に書いてないような、想像を覆すような発見をするのが研究です。でも、高校生とかにおすすめなのはやっぱり英語だと思います。生物学の共通言語は英語ですし、それ以外のことは後からでも学べます。英語だけは早くから学んでおいた方がいいと思います。

どれだけ自分が出してきたデータを客観視して見られるかも大事です。自分の仮説があって、それを証明しようと思って、いろいろ知恵を絞って実験するのでどうしてもバイアスがかかってしまいます。だけど、それではだめで、そこから先に一歩外へ出て、偏見抜きで自分のデータにどれだけ客観的に向き合えるか、ということがすごく大事です。それができるようになることが、研究者としての第一条件になると思います。

研究室紹介

永井研究室

岐阜大学大学院医学系研究科博士課程の学生を随時募集しています

僕らは知的好奇心をモチベーションとして、細菌から教えてもらいながら、新しい生命現象を解き明かし、理解していくことによって人類の知を積み重ねていけたらと考え研究に取り組んでおります。 レジオネラの研究を始めたのはアメリカに留学した1999年からで、25年ほど続けていることになります。 現在は教員が3名と、数名テクニシャンが在籍しており、学生研究員の方が今年は3名はいってくれました。

基礎医学領域での研究経験というと、将来臨床医としてはあまり役立たないとお思いかもしれませんが、実際真剣に研究に取り組んでみれば、文献マイニングや研究室内外でのコミュニケーションスキル、研究プランの策定、実際の実験、結果の解釈に必要な論理的思考力など多面的な能力が鍛えられることは間違いありません。

知的好奇心を満たすべく研究に没頭したい方、新たな発見の喜びを共有したい方、私たちと一緒に研究しませんか?

お問い合わせ

レジオネラ研究に関するお問い合わせ・ご協力はこちらから。