コラム

医療と医学

2021.11.19

アルツハイマー型認知症に対するアデュカヌマブに関する米国神経学会の立場

米国神経学会(AAN)は,最新号のNeurology誌にアルツハイマー型認知症に対するアデュカヌマブ(抗アミロイドβ抗体)に関して,患者さんや家族との協働意思決定をどのように行うべきかというポジション・ステートメント(指針)を発表しています.学会のEthics, Law, and Humanities Committeeによって作成されたものです.目的は「脳神経内科医がこの治療について,患者さんが十分な情報を得た上で決断できるようにするための倫理指針を提供すること」「患者さん中心の品の高い医療を提供することを目的として,患者さんやご家族に透明性をもってカウンセリングできるようにすること」になります.

まずこれまでのエビデンスを整理しています.アデュカヌマブは2つの治験に基づいて米国FDAに承認されたものの,経緯として両者とも試験参加者にメリットがないという理由で早々に中止されたこと,しかし後に行われたデータ解析で,1つの治験ではわずかな有益性が認められたものの,もう1つの治験では依然として有益性が認められなかったことが書かれています(詳細はこちらも参照:http://www.med.gifu-u.ac.jp/.../column/ohter/20191023b.html).そしてアデュカヌマブは,脳内のβアミロイドを減少させるものの,その減少が患者さんに意味のある利益(=認知機能の改善)をもたらすかどうかは,いまだ不明であるとも書かれています.またアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities; ARIA)と呼ばれる治療に伴う脳内炎症のリスクがあり,それには脳出血が含まれる可能性があること,FDAが承認した用量を投与された人の3分の1においてARIAが生じうることも記載されています.

次に以下の点を伝えるべきと指摘しています.
1.アデュカヌマブが認知機能を回復させるものではないことを人々に伝えること.さらに中等度・高度の認知症患者や,脳内にβアミロイド沈着を認めない認知症患者への使用を正当化する根拠は十分ではないこと.
2.潜在的な副作用や,MRI検査によるモニタリングをより頻繁に行う必要があること.
3.治験では人種的・民族的な多様性がないこと,すなわち一部の人種・民族に対してアデュカヌマブの有益性と安全性に関するデータがないこと.
4.アデュカヌマブは年間5万6000ドルという高額な価格設定であるため,使用している人に経済的な損害を与える可能性があること(上記価格には診療費,繰り返し行われる画像診断は含まれておらず,年間の費用は10万ドルを超える可能性があり,かつメディケアも通常80%しかカバーしないこと).
5.アデュカヌマブの使用が,より効果的な別の治療薬の治験への患者登録を妨げる可能性があること.

11月26日から開催される日本認知症学会第40回学術集会でもアデュカヌマブに関する議論が行われるものと思います.本邦でもどのような議論がなされるのか注視する必要がありますが,エビデンスに基づいた,患者中心の議論が望まれます.
Decisions With Patients and Families Regarding Aducanumab in Alzheimer Disease, With Recommendations for Consent: AAN Position Statement. Nov 17, 2021.
https://n.neurology.org/.../2021/11/17/WNL.0000000000013053

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