コラム

脊髄小脳変性症

2024.04.15

多系統萎縮症における新しい注目すべき所見 ―遠位食道痙攣(distal esophageal spasm)―

以前,私どもは多系統萎縮症(MSA)では食道の機能障害により,食道内の食べ物の停滞が生じ,場合によっては逆流して誤嚥性肺炎や窒息による突然死の原因となりうることを報告しました(Taniguchin et al. Dsyphagia 2015).今回,当科の大野陽哉先生と國枝顕二郎先生が食道機能障害についてさらに検討し,「遠位食道痙攣(distal esophageal spasm:DES)」という現象が生じうることを初めて明らかにしました.

症例は74歳男性.3年前に起立性低血圧にて発症し,同時に胸に食べ物が詰まった感じ,食後の反復性嘔吐を呈しました.小脳性運動失調が認められ,MSA-Cと診断しました.ビデオ透視による嚥下検査では,下部食道狭窄と食道内のバリウム停滞が認められました(下図左).内視鏡検査では下部食道の過収縮が認められ(下図左),さらに高解像度食道マノメトリー検査では下部食道の早期収縮と食道蠕動運動の低下が認められました(上図).下部食道括約筋の統合弛緩圧は正常であったため,アカラシアは除外されました.シカゴ分類ver 4.0に基づき,食道運動障害は「遠位食道痙攣」に分類されました.治療としては内視鏡的バルーン拡張術を行い,その後,胸部の詰まった感じと嘔吐は改善しました.本例は,MSA患者においてDESが食道食物の停滞と食後嘔吐を引き起こす可能性があることを示した点とその治療法を示した点で非常に重要と考えられました.

以上より,ビデオ内視鏡による嚥下検査に加えて,高解像度食道マノメトリー検査は,再発性の嘔吐や胸のつかえを呈するMSA患者に有用と考えられます.このように食道機能を注意深く評価することで,誤嚥性肺炎や窒息死を予防することができる可能性があります.

Ono Y*, Kunieda K* et al. (*equally contributed) Distal oesophageal spasm in a patient with multiple system atrophy: A case report. eNeurol Sci. 13 April 2024. https://www.sciencedirect.com/.../pii/S2405650224000078

Taniguchi H, et al. Esophageal Involvement in Multiple System Atrophy. Dysphagia. 2015 Dec;30(6):669-73.(doi.org/10.1007/s00455-015-9641-2.)

Zaher EA, et al. Distal Esophageal Spasm: An Updated Review. Cureus. 2023 Jul 7;15(7):e41504. doi: 10.7759/cureus.41504. PMID: 37551217; PMCID: PMC10404380.

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