コラム

脊髄小脳変性症

2024.02.12

多系統萎縮症におけるvocal flutter(音声粗動)と2つの臨床的意義

日本嚥下医学会は多系統萎縮症の喉頭所見をあらためて考える機会になりましたが,これに関連して,MSA-P 3例を対象とした興味深い症例集積研究が報告されています.パーキンソン病との鑑別にvocal flutter(音声粗動)という徴候が利用できるかもしれないというものです.図は出してもらった声を解析したものですが,ピンクの部分はpitch glide,すなわち音の高さを徐々に変化させる(一つの音から別の音へと声を滑らかに移動させる)状況で,500 ミリ秒の長さを示していますが,この間に3症例では健常者には認めない10回,9回,7回の「ゆらぎ」を認めます.Vocal flutterという現象です.vocal tremorという徴候もありますが,vocal tremorは1-3 Hzと低周波数であるのに対し,flutterは8Hzを超える高周波数で,両者は音響的には区別できるようです.著者らはflutterの原因として,MSAに認める喉頭機能障害を推測しています.

じつはこの論文にも引用されてますが,私たちのチームは以前,「MSAでは覚醒時に喉頭披裂筋の振戦様運動が生じること,かつこれが鎮静下の声門外転不全の重症度を示す指標となる可能性があること」を報告しています(Ozawa T et al. Mov Disord. 2010;25:1418-23).よってMSAで声にふるえが出るのは当然と思っていたのですが,この研究のように客観的にそれを示すことを考えませんでした.方法は比較的簡単で,同じ音(この論文では「あ」の音)を持続的に発声し,つぎにピッチを変えてもらい,それをPraat(https://praat.softonic.jp/)というフリーウェアで録音すると簡単に音声信号を視覚化できてしまいます.

この論文を読んで思ったのは,vocal flutterはMSAとPDを鑑別するだけでなく,MSAにおいて声帯開大不全が存在することを示唆するマーカーになる可能性があるということです.声帯開大不全の評価はプロポフォール鎮静をかける大掛かりな検査になるので,vocal flutterで代用できれば有益だと思います.MSA患者さんの診察に,持続的発声を追加したいと思います.

Mir MJ, et al. The Vocal Flutter of Multiple System Atrophy: A Parkinsonian-Type Phenomenon? Mov Disord Clin Pract. 2024 Feb 5.(doi.org/10.1002/mdc3.13988

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