脊髄小脳変性症
2023.10.09
原因遺伝子が不明であったSCA4は,ヒトで初めてのポリグリシン病であった!
脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxias: SCAs)は常染色体顕性遺伝の疾患群です.脊髄小脳失調症4(SCA4)は最も稀なSCAのひとつで,オリジナルは1996年,米国のScandinavian-American kindredにおいて報告されました.成人発症の小脳性運動失調に加え,ポリニューロパチー(感覚ニューロパチー)を呈します.かつて後索小脳型(Biemond型)と呼ばれていました.染色体16q22.1に連鎖しますが,原因遺伝子は不明です.表現促進現象(anticipation)が疑われ,CAGリピート病(ポリグルタミン病)の可能性が検討されましたが,剖検脳の検索で1C2(抗ポリグルタミン抗体)では陽性に染色されないことから否定的と判断されました.
さてプレプリント論文にて,オリジナルから27年,ついにSCA4の原因遺伝子が明らかにされました.スウェーデンの3家系の検討で,3症例では神経病理学的検索も行われました.遺伝子検査にはSR WGS(全ゲノム解析),Expansion Hunter de novoによるショートタンデムリピート(STR)解析,ロングリード(LR)WGSが含まれています.
まず臨床像の検討では,これまでに報告のなかった自律神経障害,運動ニューロン障害,眼球運動障害,嚥下障害,ジストニアを認めました.頭部MRIでは小脳のみならず,脳幹や脊髄にも萎縮を認めました. [18F]FDG-PETでは脳代謝低下が,[11C]フルマゼニル-PET(中枢性ベンゾジアゼピン受容体結合能を測定し,大脳皮質神経細胞障害の分布や程度を定量的に評価可能)では複数の脳葉,島皮質,視床,視床下部,小脳で結合低下が認められました.病理学的には,小脳プルキンエ細胞が中等度~高度脱落,脊髄では前角の運動ニューロンの著明な脱落と,後索の著明な変性が認められました.主に神経細胞に見られる核内封入体はp62およびユビキチン陽性で,まばらではあったものの中枢神経系全体に認められました.
以上の所見からリピート病を疑い,ヌクレオチドの伸長を検索したところ,zink finger homeobox 3 (ZFHX3)遺伝子の最後のエクソンのGGCリピート伸長を罹患者のみ有していました(1000人の対照群では認めませんでした).GGCリピート伸長(=ポリグリシン鎖伸長)は,ヒトの疾患ではC9orf72においてpoly-glycine-alanine expansionがあり,神経核内封入体病(NIID)ではNOTCH2NLCの5'非翻訳領域にGGCリピート伸長がありますが,コーディング領域のポリグリシン病としては初めてのものになります.
以上より,SCA4は,ZFHX3遺伝子におけるGGCリピート伸長によって引き起こされる神経細胞核内封入体を有する神経変性疾患であり,ヒトにおける最初のコーディング領域のポリグリシン病であることが明らかになりました.本邦でも存在する疾患か気になりますが,SCAと後索,Biemond型などで検索した限りそれらしき既報はなく,やはり希少なのかもしれません.
Paucar M et al. Spinocerebellar ataxia type 4 is caused by a GGC expansion in the ZFHX3 gene and is associated with prominent dysautonomia and motor neuron signs. medRxiv. October 03, 2023. doi.org/10.1101/2023.10.03.23296230