コラム

脊髄小脳変性症

2023.08.31

PEI/ODI比の低下は多系統萎縮症患者の予後不良を反映する可能性がある

多系統萎縮症(MSA)において認められる睡眠中の突然死のリスクを予測するバイオマーカーが待ち望まれています.岐阜大学と新潟大学,東京医大の共同研究で,終夜パルスオキシメーター検査におけるPEI/ODI比という簡便な指標がそのバイオマーカーになるかもしれないという報告をParkinsonism Relat Disord誌に発表しました.ODI(oxyhemoglobin desaturation index)は,平均酸素飽和度から少なくとも4%低下した1時間あたりのイベント数で,PEI(pulse event index)は,平均脈拍数から6 bpm以上増加した1時間あたりのイベント数です.PEI/ODI比が1未満になると,上気道閉塞による低酸素イベントに対する脈拍反応の鈍化を意味し,高度の低下は突然死のリスクを反映する可能性があります.

対象はMSA患者26例を後方視的に解析しました.ODIの中央値は11.6/h,PEIは8.9/h,PEI/ODI比は0.91で1未満と低下していました(全員が低下するわけではなく,12/26例(46%)では1より高値でした).突然死を来した3人は,0.10,0.91,0.41と全員1未満で,最後の検査からそれぞれ0.7年後,1.3年後,4.2年後に突然死されていました.7人の患者でPEI/ODI比の経時変化を確認したところ,図のようにすべての患者で低下傾向を示し,PEI/ODI/年は-0.43/yearでした.

PEI/ODIの減少の正確な病変部位はまだ明らかではありませんが,MSAの病理学的研究では、腹外側延髄の外側傍巨細胞核(LPGi)にあるGABA作動性ニューロンの喪失が証明されています.これらのLPGiニューロンは,間欠的な低酸素と高CO2血症に反応し,疑核の心臓迷走神経の抑制を増加させ,睡眠中の低酸素と高CO2血症における心拍数の増加に寄与することが知られていますので,論文ではここが責任病変ではないかと推測しました.いずれにしましても,今後,より詳細な終夜ポリグラフ検査(PSG)データを用いた前方視的研究が必要と考えられます.

Ohshima Y, Hokari S, Nagai A, Aoki N, Watanabe S, Koya T, Kanazawa M, Nakayama H, Kikuchi T, Shimohata T.
Variation of respiratory and pulse events in multiple system atrophy. Parkinsonism Relat Disord.
https://doi.org/10.1016/j.parkreldis.2023.105817(原文をご覧いただけます)

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