コラム

脊髄小脳変性症

2021.10.25

RFC1遺伝子関連疾患は小脳と感覚神経だけの疾患ではない.

回診でRFC1 (replication factor C1)関連遺伝子疾患の画像について議論になりました.この疾患は,原因遺伝子RFC1のイントロンに,両アレル性AAGGGリピート(ペンタヌクレオチドリピート)の異常伸長を認めます.代表的な表現型はCerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)で,両側の前庭機能障害,小脳性運動失調,感覚神経障害を主徴としますが,慢性咳嗽を呈したり,パーキンソニズムや自律神経障害を呈して多系統萎縮症(MSA)類似の表現型を示したりします(Ann Neurol. Sep 16, 2020.doi.org/10.1002/ana.25902).その他,姿勢保持障害,水平方向サッケード低下,舞踏運動,ジストニアも呈します(Neurology. 2021;96:e1369-e1382;図1).問題の画像所見については2つの論文に注目したいと思います.読みにくい場合,ブログ(https://bit.ly/3mbZEYE)をご覧ください.

◆最近,Neurology誌に報告された研究では,中央診断を行った31人(罹患期間範囲0~23年)において,小脳萎縮は最も特徴的な所見であるものの必発ではなく(28/31名;90%;図2A),小脳半球よりも虫部に多く認めた(70%対87%).89%の患者では軽度~中等度の萎縮であったが(図2B),一部では罹患期間10年で高度の小脳萎縮を来した(図2C).しかし罹患期間20年で小脳萎縮を来さない症例もあった(図2D).つまり小脳萎縮の程度は罹病期間によらないことが示唆される. その他の所見として,主に頭頂葉に目立つ大脳萎縮を42%で,脳幹萎縮を13%,大脳基底核(淡蒼球)の信号異常(図2G)を6%で認めた.大脳萎縮に影響する因子は高齢で,脳幹萎縮に影響する因子は罹病期間であった.つまり疾患に直接関連しているのは脳幹萎縮と考えられた.脳幹萎縮は,嚥下障害,尿意切迫・尿閉,垂直および水平方向サッケード低下と関連していた.

Neurology. 2021 Mar 2;96(9):e1369-e1382. doi.org/10.1212/WNL.0000000000011528.

◆最近のMov Disord誌に本症の脳障害の構造的特徴について報告された.22名の患者(平均年齢62.8歳,罹患期間10.9年)と同数の健常対照に対し3T MRIを実施し,大脳灰白質と白質,小脳を比較した.症状としては,運動失調,感覚障害,前庭反射障害のほか,パーキンソニズムや錐体路徴候も認めた.画像解析では,広範囲かつ比較的対称的な小脳と基底核の萎縮を特徴とすること,脳幹はすべての部位で体積減少が認められること,大脳白質(主に脳梁)が傷害される一方,大脳皮質の損傷はむしろたもられることが分かった(図3).

Mov Disord. 2021 Jul 9. doi.org/10.1002/mds.28711.

以上のように,RFC1遺伝子関連疾患は純粋に小脳や感覚神経のみ侵される疾患ではなく,大脳基底核や大脳深部白質にも障害が及ぶことが示されています.

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