コラム

脊髄小脳変性症

2021.08.26

症候,画像で左右差を認める小脳性運動失調では自己免疫性脳炎を鑑別に挙げる

高力価の抗GAD65抗体は,stiff-person症候群,てんかん,辺縁系脳炎,小脳性運動失調症などと関連します.今回,最新号のNeurol Clin Pract誌に,Jankovic先生らが,抗GAD65抗体陽性の片側性小脳性運動失調(hemiataxia)の2症例を報告されています.
症例Aは75歳の橋本病の女性で,67歳で失調歩行にて急性発症し,69歳より左半身の協調運動障害が出現しました.頭部MRIでは左優位の小脳萎縮を認めました(図).血清抗GAD65抗体濃度は4800 IU/mL以上.脳脊髄液では当初陰性でしたが,1年後に陽性となりました(1.41nmol/L).全身検索で腫瘍なし.IVIGにて左上肢と失調歩行が顕著に改善しましたが,その後,傍脊柱筋の筋痙攣が発生し,stiff-person syndromeに対する治療が必要となりました.
症例Bは,糖尿病と甲状腺機能低下症を有する62歳の女性で,やはり左優位の小脳性運動失調にて発症しました.血清抗GAD65抗体濃度は25000 IU/mL以上.腫瘍なし.IVIGとステロイドパルス療法により,運動時振戦を除き,症状は改善しました.
抗GAD 65抗体関連脳症としてhemiataxiaが生じることは,過去にも3症例で報告がなされています.著者は機序不明ながら,一方の小脳半球が自己抗体の損傷作用に対して他方よりも脆弱である可能性を示唆しています.私達もhemiataxia,もしくはSPECTで明らかな左右差を認める小脳性運動失調症患者では,たとえ慢性の経過であっても治療可能な自己免疫性小脳失調症を鑑別に挙げる必要があると考えています.もしhemiataxia,もしくはSPECT等で明らかな左右差を認める失調患者で,抗GAD 65抗体が陰性であった場合,当科にご相談をいただければ抗mGluR1抗体,臨床像によっては抗IgLON5抗体,ならびにラット小脳凍結切片による自己抗体の検索が可能です.御連絡いただければ幸いです.
Neurol Clin Pract. August 26, 2020.(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000000939

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