コラム

パーキンソン症候群

2023.07.31

多系統萎縮症の予後を推定するノモグラムの開発

多系統萎縮症(MSA)の生存期間に関連する複数の臨床的要因が同定されています.今回,MSA研究のメッカ,オーストリアのインスブルック大学より,予後(7年生存率)を推定するためのノモグラム(ある関数の計算をグラフィカルに行うために設計された二次元の図表)が開発され発表されています.このノモグラムは個人単位で生存を予測するツールであり,患者さんのカウンセリングや療養計画に役立つものと考えられます.

方法は1999年から2016年の間にインスブルック大学に紹介されたMSA患者210人を後方視的に検討しました.35例が追跡不能,124例(59.0%)が死亡,51例(24.3%)が解析時に生存していました.発症から死亡までの生存期間の中央値は84ヵ月.多変量Cox回帰分析では,生存率定化の独立した危険因子として以下の変数が同定されました:発症時の高年齢(P = 0.0001),発症3年以内の転倒(P = 0.0001),レボドパ反応性の欠如(0.037),早期の起立性低血圧(P = 0.002),早期の泌尿・生殖器障害(P = 0.001),および発症3年以内の膀胱カテーテル治療(P = 0.002)(ちなみに「早期」の定義は運動症状の出現前ないし出現後1年以内).これらを変数にしてノモグラムを作成しました.内部検証および外部検証の時間依存性曲線下面積(AUC)は最初の7年間で0.7以上で,このモデルによる7年後の予測生存率と実際の生存率はよく一致していました.

【ノモグラムの使用方法】
①7項目の該当箇所にチェックを入れる(発症年齢,3年以内の転倒,早期カテーテル挿入,レボドパ反応性,早期の起立性低血圧,早期の泌尿・生殖器障害,純粋運動症状発症)
②各7項目のポイントを表の1番の上のスケールから調べ合計する.
③合計点をTotal pointsに書き込む
④そこから直線をおろし,7年生存率を調べる.

例えば図の患者1(赤い十字)の場合,合計ポイント84で,7年生存率が65%程度,患者2(青丸)では合計ポイント128で,7年生存率は35%程度となります.

以上のようにインスブルックMSAコホートに基づき,MSA患者における7年生存率を予測する信頼できるツールが開発されました.有用性を確認するためには,日本人も含めた大規模な前向き研究が必要と考えられます.

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