コラム

パーキンソン症候群

2023.03.02

見逃してはいけない下肢のジストニアと嬉しかった双子の赤ちゃんとの出会い

左図はLancet誌に掲載された写真です.41歳,ポルトガルのプロホッケー審判員で,8か月前から歩行障害を来たしました.複数の整形外科を受診し,膝の損傷と診断され,理学療法を受けましたが効果はありませんでした.その後,脳神経内科を紹介されました.家族歴としては母方の叔母にパーキンソン病患者がいました.神経学的に重要な点は右足が内反・底屈している点で,ほかに仮面様顔貌,右下肢優位の軽度の筋強剛,運動緩慢を認めました.また通常の歩行は困難ですが,走ったり後ろ向き歩きはスムーズで,自転車も問題なく乗れます(コメント欄に動画).右足の所見はいつも同じパターンで(常同性),一定の動作において認められ(動作特異性),症状を改善させる特定の動作があることはジストニアを示唆します.このジストニアは若年性パーキンソニズムにしばしば認められる所見で「新しいパーキンソン病像のスケッチ(2020)」でも取り上げられています(右図Bの矢印:https://bit.ly/3KL3dS1).

診断はParkin遺伝子変異に伴う常染色体潜性遺伝性パーキンソニズム(PARK2)です.歴史的にも本邦で初めて報告され,原因遺伝子も1998年,順天堂大学により同定されました.私も何人か主治医をさせていただきましたが,忘れられない患者さんがいます.パーキンソン病は高齢発症ですので妊娠は稀ですが,PARK2は若年発症ですのでありえます.じつは私たちはPARK2患者さんの初めての妊娠・出産例を2011年に報告しています.27歳女性でなんとハイリスクの二卵性双胎妊娠でした.かつ妊娠前,不思議なことにパーキンソン症状は排卵と月経のあいだに増悪を認め,さらに妊娠後にも増悪しました.性ホルモンの変動が影響しているものと推測されました.器官形成期は催奇形性を避けるためレボドパ・カルビドパ単独の治療とし,ADL低下に対しては入院治療でサポートしました.器官形成期終了後,十分量の抗パーキンソン薬に戻しました.幸い元気な双子の男児を出産し,本当に嬉しかったです.詳細は下記論文2にまとめましたが,久しぶり論文を眺めて外来にお母さんと一緒に訪れる2人のことを思い出しました.
1) Lancet. 2023 Feb 25;401(10377):e18.(doi.org/10.1016/S0140-6736(22)02602-2)(アクセスフリー)
2) BMC Neurol. 2011 Jun 17;11:72.(doi.org/10.1186/1471-2377-11-72
ブログでの解説(https://bit.ly/3ZdrEfh

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