パーキンソン症候群
2021.10.13
認知症,変性疾患におけるてんかん発作の有病率 ー待望の剖検例の検討ー
高齢者てんかんの診療ではその背景(原因)疾患を考えることになります.画像上,脳血管障害がなく,またアルツハイマー病(AD)も考えにくい場合,他の認知症や神経変性疾患が背景にある可能性も考えます.しかしこれまで,病理学的に診断が確定した症例を用いて,AD以外の認知症や神経変性疾患のてんかん発作の有病率を示した研究は知る限りにおいてありませんでした.今回,ドイツよりNeurobiobank Munichに登録されている454名の臨床データを検討した研究が報告されました.AD 144名,レビー小体病(LBD)103名, 進行性核上性麻痺(PSP)93名,前頭側頭葉変性症(FTLD)53名, 多系統萎縮症(MSA)36名,大脳皮質基底核変性症(CBD)25名が含まれました.全経過中のてんかん発作の有病率を算出し,疾患間で比較を行っています.
結果としては,各疾患のてんかん発作の有病率は,AD 31.3%,CBD 20.0%,LBD 12.6%,FTLD 11.3%,MSA 8.3%,PSP 7.5%でした(図).やはりADでは LBD,FTLD,MSA,PSPと比べて有病率が有意に高いことが分かります.しかし残念なことに鑑別に役立つと思われる発作型に関する記載はありませんでした.また認知障害が初発症状である場合,そうでない場合と比較しててんかん発作の有病率が髙いこと(21.1%対11.0%),運動障害が初発症状である場合,そうでない場合と比較しててんかん発作の有病率が低いこと(10.3%対20.5%)が分かりました.これは,認知障害では大脳皮質の障害をきたしやすいためと考察されています.CBDは,症例数は少ないですが,やはり大脳皮質病変を認めるため,有病率が上がるのかもしれません.最後に,MSAのみてんかん発作を呈した症例では,罹病期間が有意に延長することが示されました(12.3年対7.0年).MSAでは神経変性が高度になると(大脳皮質に変性が及び)てんかん発作を合併しやすくなるのではないかと考察しています.
以上より,AD以外の神経変性疾患でも10~20%と頻度は高くないもののてんかん発作を呈しうること,さらに初発症状が認知症であることはてんかん発作の危険因子になる可能性があることが示されました.臨床的に有用な報告だと思いました.
Vöglein J, et al. Seizure prevalence in neurodegenerative diseases-a study of autopsy proven cases. Eur J Neurol. Sep 2, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15089)