コラム

パーキンソン症候群

2020.04.27

世界で最も有名なパーキンソン病患者の臨床像

この写真を見て「実在したのか!」と驚いた人もいるのではないでしょうか.教科書で目にしてきたパーキンソン病のイラストのモデルとなった人物です.この2枚の写真をもとにして,「史上最高の臨床神経学者」と評された英国の神経学者William R. Gowers(1845~1915年)が,著書A Manual of Disease of the Nervous System(1893)のなかにイラストを書きました.そしてこの患者さんの写真は,臨床神経学の父,Jean-Martin Charcot先生の弟子であるSt. Legarの博士論文のなかに含まれているものなのだそうです.この患者さん,Pierre Dさんは1822年,中央フランスの生まれで,1876~79年にかけてパリのサルペトリエール病院に通院しました.50歳より若くして発症し,初診時には筋強剛,振戦に加え,写真のように特徴的な姿勢異常を認めました.St. Legarは,さらに歩行時の一側の腕の振りの減少,仮面様顔貌,流涎,単調なしゃべりを指摘し,書字障害も記録に残しています.そしてそのなかで最も特徴的な所見は姿勢異常だと記しています.つまりJames Parkinsonが原著「振戦麻痺」に記載しなかった所見を,Charcot先生とその弟子が見出したという,この疾患の概念を大きく変えることになった症例でもあるわけです.世界でも最も有名なパーキンソン病患者さんのイラストは,パーキンソン病が現在の疾患概念に変わったを示す記念碑とも言えるわけです. Mov Disord 35;389-91, 2020

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