コラム

パーキンソン症候群

2019.04.11

進行性核上性麻痺に対するtrihexyphenidyl試験の背景について

標題の試験に関して,重要なコメントをいただきました.「すごく意外である.なぜ候補薬になったのか」,「家族から喜ばれる思い出多い治療である」との相反するコメントをいただきました.

前者のご意見はごもっともです.PSPでは病理学的にコリン作動性ニューロンが尾状核,前頭葉,橋核群を中心に広範に変性し,その結果として運動と認知機能の障害をきたすと想定されてきました.よってムスカリン受容体拮抗薬のtrihexyphenidylを使用することは理論的に矛盾があるものと思われます.しかし古い報告になりますが,Blumenthalは12/39例で抗コリン剤の有効性を確認し(Arch Neurol 1969),本邦でも中山らが少量のtrihexyphenidylが姿勢保持障害に著効した症例を報告しています(神経内科2002;下図).後者ではtrihexyphenidylにはコリン作動性ニューロンへの未知の作用があるのではないかと考察しています.

Trihexyphenidylの有効性は国立病院機構東名古屋病院 饗場郁子先生から教えていただきましたが,「トリヘキシフェニジル塩酸塩」は特発性パーキンソニズムに適応があるため,その効果の検証を行ってきました.冒頭のコメントにもありましたように明らかな改善をきたす症例があります.運動緩慢に対する効果があり,その効果は必ずしも一過性ではない印象です.逆に動けるようになりすぎて危険である症例を経験したり,少量とはいえ認知機能への影響も懸念されました.このため林祐一講師と饗場郁子先生とチームを作り,1年以上かけて試験プロトコールを練ってきました.

PSPに対してはご承知の通り,複数の病態修飾薬の臨床試験が進行中です.もし成功すれば素晴らしいです.一方でpatient-centered careの観点からのアプローチも必要だと私は思います.つまり病態修飾薬では比較する対象は対照群や自然歴であり,その効果は患者さんにとって必ずしも実感できるもの,満足の得られるものとは限らないことが分かってきました.その意味で病態抑止療法と同じ熱意を持って,一時的にでもQOL・ADLを改善しうる対症療法に取り組む必要があるのではないかと考えています.2施設での少数例での検討でもし有効性を証明できれば,より規模の大きい検討に進みたいと思います.その際にはぜひ多くのご施設にご協力をお願いしたく存じます.

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