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2022.11.24

重要!腫瘍随伴性神経症候群の診断においてYo,Hu抗体の結果は慎重に判断する

腫瘍随伴性神経疾患症候群(PNS)は腫瘍に伴い発症する免疫介在性神経疾患です.細胞内神経抗原に対する自己抗体(腫瘍神経共通抗原認識抗体;onconeural antibody)の測定が診断において不可欠です.抗体の同定にはラット脳切片を用いた間接免疫蛍光法やcell-based assay(CBA)が用いられますが,日常臨床では簡単・迅速に実施でき,かつ同時に複数の抗体をスクリーニングできるイムノドットアッセイ(抗原を直接ニトロセルロース膜上に滴下し,結合した自己抗体を二次抗体,酵素反応を用いて発色させ自動検出するもの)が行われます.PNS+2 blotおよび EUROLINE PNS 12 Ag という2種類が市販されています (いずれもドイツ製).NS+2 blotは,Yo, Hu, Ri CV2/CRMP5, Ma2, SOX1, amphiphysin, Ma1, GAD65の9種類の抗原を,EUROLINE PNS 12 Ag はamphiphysin,CV2/CRMP5,PNMA2(Ma2/Ta),Ri,Yo,Hu,recoverin,SOX1,titin,zic4,GAD65,Tr(DNER)の12種類の抗原を検索します.しかし感度と特異度は不明です.

市販イムノドットによる診断の正確性を調べた研究が,2020年にフランスから報告されています.PNSが疑われる患者血清(n=5300)を2つのイムノドットアッセイにより検査し,陽性サンプルは,さらに間接免疫蛍光法および組換えタンパク質を用いたCBAまたはウェスタンブロットを用いて追加検査しました.

さて結果ですが,PNS+2 blot は 128/1658 (7.7%) の血清で陽性,そのうち47/128 (36.7%)のみが追加検査でも陽性でした. EUROLINEは186/3626(5.1%)で陽性,そのうち56/186(30.1%)が追加検査でも陽性でした.抗体ごとの陽性率は,Yo抗体ではわずか7.2%(PNS+2ブロット)ないし5.8%(EUROLINE)と低く,抗Hu抗体では88.2%(PNS+2ブロット)ないし65%(EUROLINE)と比較的高く,抗体によってばらつきを認めました(表).EUROLINEでバンド強度弱陽性(8-14)の27検体は全例追加検査が陰性でした.図はMa2抗体の実例を示しています(上段はイムノドット陽性ですが,免疫組織とCBAは陰性で検査結果に解離を認めます).

追加検査で陽性となる最低のバンド強度は,Yo抗体(n=3)およびHu抗体(n=11)全例で71以上(強陽性),SOX1抗体では15~70(陽性;n=19)または71以上(強陽性;n=9)と抗体によってばらつきがみられました.EUROLINEにおいて追加検査が陰性であった症例で,臨床情報を入手できた者のうち,癌を認めたのは6.7%のみでした.

以上より,イムノドットはPNSスクリーニングに有用ですが,各抗体で陽性とする閾値を設定する必要があり,さらに臨床情報および他の追加検査による確認が必要ということになります(診断に悩むことになります).少なくともバンド強度弱陽性例や,陽性となった抗体と臨床像が合致しない場合には,結果を疑ってかかる必要があります.ちなみになぜこのように検査結果に解離が生じるかについては,市販のイムノドットはリコンビナントタンパクを使用しており,天然のタンパク質のコンフォメーションを示さない可能性があること,またアッセイに用いられる標的腫瘍抗原は,真の抗原ではない可能性が議論されています.
Déchelotte B, et al. Diagnostic yield of commercial immunodots to diagnose paraneoplastic neurologic syndromes. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2020 Mar 13;7(3):e701.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000701)

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