コラム

その他

2021.02.09

球麻痺型ALSの新たな鑑別診断:他の部位に進展をしない症例では抗IgLON5抗体の測定を!

「抗IgLON5抗体関連疾患」は神経細胞接着分子のひとつIgLON5を認識する抗体を有する自己免疫性神経疾患です.視床や脳幹被蓋にリン酸化タウが沈着するため「自己免疫性タウオパチー」とも考えられています.また軽度ではあるものの,脊髄前角にもリン酸化タウ蓄積を認めます.臨床的に多彩な表現型を呈し,まず4病型,①睡眠障害(睡眠関連呼吸障害,睡眠時随伴症:つまりノンレムないしレム・パラソムニア),②球麻痺症候群,③PSP様症候群,④認知機能障害が報告されました.その後,さらに小脳症候群,そして私どもが報告した大脳皮質基底核症候群(Mov Disord Clin Pract. 2020 doi.org/10.1002/mdc3.12957)も報告されています.

※動画は原著のもので,ノンレム・パラソムニアを示します.構造不良なステージN2における異常運動で,寝ながら物を食べるような動作を認めます(Lancet Neurol 2014;13:575-86).

さて今回,スイスから,球麻痺型ALS(もしくは昔の進行性球麻痺;progressive bulbar palsy)に似た表現型を呈し,一部で免疫療法が有効であった5症例が報告されました.つまりALSと臨床診断された症例の一部に,免疫療法が奏効する一群が頻度不明ながら存在する可能性があり,臨床的意義が大きいことからご紹介したいと思います.症例は,2017年から2019年までにスイス・チューリッヒ大学病院に紹介された症例で,年齢は52~74歳(中央値70歳),全例男性でした.全例,自己免疫疾患や腫瘍の既往はありませんでした.初発症状は閉塞型無呼吸3名(1名は呼吸困難,パラソムニア合併),嚥下障害1名,嗄声1名でした.全員で痙性,腱反射亢進,軽度の四肢の筋力低下・筋萎縮,舌と末梢筋の線維束性収縮を認めたことから,球麻痺型ALSと考えられました.球麻痺と呼吸筋麻痺は重篤でしたが,ALSとして典型的な,他の部位への進行性の症候の広がりを認めなかったため,Awaji診断基準を満たしませんでした.髄液では細胞増多はないものの,軽度~中等度の蛋白上昇を認めました.血清・髄液の抗IgLON5抗体が陽性で,過去にALSと診断した典型例の検索では抗体はみな陰性であったため,抗IgLON5抗体関連疾患と診断されました.5名のうち2名が免疫療法により嚥下関連QOL,体重,身体活動の改善を示し,1名では嚥下と食事が可能となりました.しかし完全に回復するわけではなく,喉頭機能障害は持続し,また気管切開も必要でした.病理の報告はありません.

★以上のように,球麻痺発症ALSを疑わせるものの,他の部位に進展をしない症例のなかに,抗IgLON5抗体関連疾患が含まれている可能性が示唆されます.本抗体は当科でCBA法にて測定でき,もし陽性であれば免疫療法を検討して良いと思われますので,もし以下のような症例がいらっしゃいましたらご相談いただければ幸いです.

1)発症早期から,上気道閉塞による閉塞型無呼吸,喉頭喘鳴,急性呼吸困難発作,顕著な睡眠障害,重度の嚥下障害を認める.
2)軽度の四肢の筋萎縮・筋力低下は見られるが,基本的に球麻痺,呼吸筋麻痺が主体で,他の部位に進展せず,Awaji基準を満たさない.
3)髄液蛋白は軽度から中等度上昇.

Werner J, et al. Anti-IgLON5 Disease: A New Bulbar-Onset Motor Neuron Mimic Syndrome. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021 Feb 2;8(2):e962. (https://nn.neurology.org/content/8/2/e962

一覧へ戻る