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2017.07.22

後頭部激痛発作の意外な原因 -臨床の場における観察の重要性-

岐阜大学神経内科・老年内科の林祐一先生らが,後頭部の激痛発作を呈した3症例についてHeadache誌に報告している.非常に重要な指摘であるのでご紹介したい.

3症例とも頭痛を主訴に救急外来を受診し,頭部CTないしMRI検査が行われたが,頭蓋内に後頭部痛の原因となる病変を見出せず,診療医にとって「理解しがたい激しい頭痛」であった.くも膜下出血にも類似する激しい頭痛を呈する症例も存在し,まさに激痛発作という表現が当てはまった.

実は,これらの症例は視神経脊髄炎(NMOSD)の再発であった.林先生らは,2007年から2016年までの10年間で経験した3症例の臨床症状および画像所見について検討している.全例,AQP4抗体陽性のNMOSDで,頭痛歴のない女性であった.いずれもステロイド単剤による維持療法中(15-17.5mg/d)の再発であった.後頭部の激痛であるため,大後頭神経痛も鑑別に挙がったが,頸髄MRIでいずれもC2椎体レベルの脊髄の背側部分を含む病変がみられたため,再発と判断した.痛みに対してNSAIDsや抗痙攣薬は無効であったが,ステロイドパルス療法が有効であった.既報を渉猟したところ,NMOSDだけではなく,多発性硬化症や初発の特発性脊髄炎でも同様の症状を呈し,画像上,C2椎体レベル脊髄の背側高信号を認めた例が報告されている.偶然にも私たちは,同じ号のHeadache誌に頸原性頭痛の臨床像を報告しているが,これらの症例の頭痛は,頸原性頭痛として矛盾はないように思われる.

以上より,以下の2点を強調したい.

  1. NMOSDの臨床症状として,後頭部激痛発作を認識する必要がある.

  2. 後頭部激痛発作を認めた場合,頭部に異常がない場合,頸髄MRIを確認する.

以下,林先生から頂いたコメントを転記しておく.
『10年前に文献検索をしたときには,NMOSDの症例で1例もこのような症例が報告されていませんでした.当時1例報告をしようと思いましたが,NMOSDなので脊髄に病変がおきるのは当たり前という意見もありました.しかし,なにか新しい現象かもしれないと思い,頭の隅に絶えずこの患者さんのことを思っていました.2例目,3例目と続く中で思いは確信に変わりました.神経内科医が不在の地域では診断の遅れにもなるため,世界中の多くの医師にこの現象を知ってもらう必要があると強く感じました.この論文は患者さんが教えてくれた診療の技かもしれません』

彼のコメントは東京大学神経内科初代教授の豊倉康夫先生のおっしゃられたことを思い起こさせる.
「臨床の場では,同じ性質の現象が繰り返し現れてくるが,それを見逃さないように」「一度見たことにあまり意味をつけるな.ただ良く覚えておけ.二度見たら何かあると思え.それは残念ながら,大体 99.9%は本に書いてあることが多いが,稀には誰も気付いていないこともある!三度見たら只事ではない.それは,常に何物かである!」
二人の言葉は,臨床の場における観察の重要性を示している.

論文アブストラクト

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