コラム

神経所見・検査所見

2024.02.14

遺伝性末梢神経障害+手指振戦 = Roussy-Lévy症候群

動画は25歳男性,11歳で発症し,緩徐に進行したCharcot Marie Tooth diseaseの患者のものです.不規則,かつjerkyで,左右差のある姿勢時/運動時振戦/安静時振戦で,軽度の感覚性運動失調も伴っています.これらの所見はいわゆるRoussy-Lévy症候群に一致します.

本態性振戦と誤診する可能性がありますが,jerkyであったり,周波数が5Hzと遅いことから違和感を持つと思います.遺伝子検査ではPMP22遺伝子の重複を認めました.Roussy-Lévy症候群では70%の症例でPMP22遺伝子の重複(CMT1A)を認めること,その他の症例ではPMP22またはP0遺伝子の点突然変異を認めることが分かっています.神経伝導検査は脱髄性神経障害で,CMT1Aとして矛盾なしでした.

Roussy-Lévy症候群はフランスのGustave RoussyおよびGabrielle Charlotte Lévyのふたりの名前に由来します.1926年,ふたりは常染色体顕性遺伝の末梢神経障害の大家系7名について報告しました.小児期に出現する不安定歩行,両側pes cavus,腱反射消失,遠位筋萎縮と筋力低下,「四肢失調を伴う姿勢時振戦」を伴っていました.

1934年,Lévyは48歳の若さで亡くなりました.彼女はCharcotの弟子であるPierre Marieの弟子であり,Marieとともにパリのサルペトリエールで働きました.Marieとの協力のもと,脳炎後症候群や脳腫瘍の研究を行いました.Lévyが筆頭著者となった論文は数少ないそうですが,Roussyは彼女への弔事の中で,彼女が主要な部分を執筆した論文は多かったと述べています(20世紀初頭における女性医師の地位について議論した論文もあります;下記).彼女の家族は,彼女が自ら研究していた病気が原因で亡くなったと公表しています.おそらく脳炎後症候群か脳腫瘍で亡くなられたと考えられています.
Kumar R et al. Roussy-Lévy Syndrome: Pes Cavus, Tendon Areflexia, Amyotrophy, Gait Ataxia, and Upper Limb Tremor in a Patient with CMT Neuropathy. Tremor and Other Hyperkinetic Movements. 2024; 14(1): 6, pp. 1–4. DOI: https://doi.org/10.5334/tohm.846(動画はフリー)

Koehler PJ. Gabrielle Lévy and the Roussy-Lévy syndrome. J Hist Neurosci. 2018 Apr-Jun;27(2):117-144. (doi.org/10.1080/0964704X.2018.1423848

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