コラム

神経所見・検査所見

2023.09.18

ベリーダンサー症候群?それとも?

ベリーダンサー症候群は,横隔膜が不随意に繰り返し収縮し,腹部を起伏させたり収縮させたりする,あたかも中東のベリーダンスを踊っているような運動異常症を言います.腹部ジスキネジア,横隔膜フラッターとも呼ばれます.責任病変は脊髄や大脳基底核です.

原因は多岐にわたり,手術などの外傷,薬剤(サルブタモール,レボドパ,ガランタミン等),機能性運動異常症が有名です.しかし自己免疫性運動異常症でも生じます.とくに近年,「Caspr2抗体脳炎」が注目されています.他の自己免疫疾患を合併する場合や,腫瘍(主に胸腺腫)を認める場合,Caspr2抗体を測定することが重要と言われています.

さてこの動画はいかがでしょう?NEJM誌がYouTubeに公開したもので,34歳男性が10日ほど前から,前かがみや横になると悪化する息切れを呈して受診しました.仰臥位にて腹壁が吸気時に内方に,呼気時には外方へと奇異性運動を示していることがポイントです.副呼吸筋は動いています.呼吸数36回/分,酸素飽和度は正座時98%,仰臥時88%でした.

これは【両側横隔神経麻痺】の所見です.つまり胸壁の副呼吸筋が収縮して胸膜圧が下がると,弱くなった横隔膜が上方に移動し,腹壁が内方に移動します.吸気時と呼気時に撮影した胸部X線では,両側の横隔膜の動きは欠如していました.頸椎MRIではC3からC6にかけての重度の狭窄と,圧迫に伴う脊髄の信号変化を認めました.治療として夜間のCPAPが開始されました.

Mov Disord Clin Pract. September 23, 2021(doi.org/10.1002/mdc3.13351
N Engl J Med. 2023 Sep 14;389(11):e22.(doi.org/10.1056/NEJMicm2302397

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