コラム

神経所見・検査所見

2023.06.15

Air pillow sign(空気枕) ―首下がり症候群の原因の鑑別に役立つ症候―

首下がり症候群(drop head syndrome)の機序としては,①前頸筋の過剰緊張(ジストニア)か,②後屈筋の筋力低下に大きく分類できます.前者としては多系統萎縮症やパーキンソン病,isolated cervical dystonia(ICD)など,後者としては重症筋無力症,ALSなどがあります.よって鑑別診断を進めるにはいずれの機序で首下がりが生じているかを見分ける必要があります.しかし初学者にはなかなか区別が難しいこともあります.昨日,病棟で若い先生がたと一緒にラウンドをし,前頸筋の過剰緊張と判断する簡便な診察法を伝授しました.

患者さんに仰向けに寝ていただき,枕を外します.まず確認すべきはこのとき前頸筋群が緊張し浮き立って見えるかどうかです(図左).また枕を外しても頭はベッドに接地せず,宙に浮いたままの状態になるかも重要です(図右).これがAir pillow signです.しばらく見ていると徐々にジストニアは軽減して前頸筋群の緊張は消失,かつ頭がベッドに接地します(整形外科的頸椎疾患でないため頸は最終的に伸展します).また異常な姿勢が持続すると,伸展された筋に非特異的炎症が生じ,後頸部筋の痛みや腫れが生じるので,その有無を確認することも大切です.

患者さんは上記所見をいずれも認める前頸筋の過剰緊張で,その他の神経症状を認めないためICDを疑いました.本年,MDSから診断に関する総説が報告されていますので,それに沿ってさらに除外診断と分類を行っていくことになります.
藤本健一.パーキンソン病における首下がり症候群.脊椎脊髄2015;28:943-949(下図の出典です).
Albanese A, et al. Mov Disord. 2023 Mar 29.(doi.org/10.1002/mds.29387

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