コラム

神経所見・検査所見

2023.04.26

機能性運動障害はinconsistencyとincongruenceの2本柱で症候学的に診断する

米国神経学会年次総会(AAN2023)にてAlberto J Espay教授(シンシナティ大学)の機能性運動異常症(FMD)の講義を拝聴しました.昨年,Lancet誌に発表された短報の詳しい解説で,YouTubeで下記動画も公開されています.

提示症例は4ヶ月前に突然発症した,頭部と右腕の間欠的な不随意運動を呈した67歳女性です.前医の画像検査や脳波は正常でした.そして「心因性」と言われた後,納得がいかずEspay教授の専門外来を受診しました.

広頸筋の間欠的収縮と頭部の回転運動を伴う発作性頸部後屈でした.この運動異常には振幅と周波数の変動が見られ,また複雑な指タッピングを行うと一時的に抑制されたり,指タッピングの周波数と同期したりしました.歩行時には縦横の歩幅が変動し,失立失歩も認め,さらに頭部の動きも変化しました.またプルテストに対する反応が過剰でした.

重要なことはFMDの診断は除外診断により行うのではなく,症候学的に,2つの観点から,積極的に行うことです.つまり①運動異常の振幅,分布,重症度にinconsistencyを認めること(一貫性がないこと),そして②上述の指タッピングにより徴候が変化したり歩行時に失調が出現したりするといったincongruenceを認めること(一致・適合しないこと.解剖学的に説明できないこと)を示すことで診断ができます.つまりこの2つを示せば,心理的ストレスや疾病利得などの精神的問題や画像検査などの検査は不要で,症候学的に確定診断できることになります.

この患者さんは,自分が認知していない不適切な思考がFMD発症の素因となるという説明を聞いて,納得・安心し,認知行動療法士とともに治療・リハビリに励むことを切望しました.2ヶ月後,このFMDは消失しました.適切に診断し,その結果を伝えることが,その後の認知行動療法,理学療法,作業療法が成功する鍵となります.

Hess CW, Espay AJ, Okun MS. Inconsistency and incongruence: the two diagnostic pillars of functional movement disorder. Lancet. 2022 Jul 23;400(10348):328.(doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01184-9

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