コラム

神経所見・検査所見

2022.10.31

バルプロ酸は振戦のみならず運動緩慢もきたす!

Mov Disord Clin Pract誌に,抗てんかん薬バルプロ酸(VPA)による運動緩慢の動画があり驚きました.てんかん患者に振戦・運動緩慢を認める場合,まずVPAによる薬剤性パーキンソニズムの可能性を考える必要があります.

まずVPAによる振戦は比較的有名かと思いますが,低振幅・高周波数(6~15 Hz)で,メタ解析ではVPA内服患者における発生率は14%,その投与量や治療期間と関連することが示されています.そして今回の論文では,抗てんかん薬がVPA単独より,VPAにその他の抗てんかん薬を併用している場合,振戦が強くなることが示されています.

さて問題は運動緩慢で,下記動画は6セグメントに分かれています.①~④はてんかん患者で,①VPA単独療法+振戦あり,②VPAを含む併用療法+振戦あり,③VPA内服+振戦なし,④VPA内服なし,➄パーキンソン病(PD),⑥コントロールです.分かることは,VPAを服用していると振戦の有無にかかわらず,PDと同程度に,指タップが遅くなるということです.ただしPDと異なり,動作の進行につれて振幅や速度がさらに低下するシークエンス効果は認めず,鑑別のポイントになるのかもしれません.またVPAを内服していないてんかん患者では運動緩慢は認めませんでした.以上より,VPAによる動作緩慢は振戦に関係なく生じ,また振戦の発生に先行することもあると言えます.機序としては小脳ネットワークの障害や,基底核に作用してドパミン神経伝達に影響を及ぼす可能性が考察されています.ちなみにPubMedでseizureとparkinsonismを検索すると,変性疾患や自己免疫性疾患を含め,多様な原因が検索されます.VPAによる薬剤性パーキンソニズムをきちんと鑑別する必要があります.

しかしそれにしてもVPAは多くの方に処方してきましたが,運動緩慢に気が付きませんでした.軽いということでしょうかね.いずれにしても少々,ショックです.注意して見てみたいと思います.

Front Neurol. 2020 Dec 15;11:576579.(doi.org/10.3389/fneur.2020.576579
Mov Disord Clin Pract. Aug 27 2022(doi.org/10.1002/mdc3.13560)動画はフリーです.

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