コラム

神経所見・検査所見

2022.09.23

眼科医Wilhelm Uhthoffが見出したウートフ徴候

カンファレンスで研修医の先生から「ウートフ徴候とは何ですか?」と質問がありました.これは多発性硬化症において,入浴などで体温が上昇すると神経症状が短時間(24時間以内),悪化することです.これを報告したドイツ人医師Wilhelm Uhthoff(1853-1927;左図)にちなんで,1961年にRickl Gが命名しました.

1890年,Uhthoffは多発性硬化症100人のうち4人に「身体運動時および疲労時の著しい視力低下」を認めることを報告しました.彼は運動が原因と考え,体温の上昇の重要性には気づいていませんでした.1950年,この現象をもとに温浴試験(hot bath test)が開発され,多発性硬化症の診断に使われるようになりました.1980年代になり,温浴検査はMRIや脳脊髄液検査などに取って代わられました.右図は正常な神経線維と髄鞘が減少した神経線維の伝導速度の温度による変化(計算値;Schauf CL et al. 1974)で,温度依存性伝導ブロックの主な機序は温度によるイオンチャネルの特性の変化と報告されました(Smith KJ et al. 1999).

さてこのUhthoff先生,じつはドイツの有名な眼科教授で,マールブルグ大学,後にブレスラウ大学に在籍しました.非常に科学的で,かつ神経学に強い興味を持っていたと言われています.それもそのはず,1877年には「ウィルヒョーの3原則」で知られる病理学者Rudolf Virchow(1821-1902)ととも研究を開始し,その後,勤務したベルリンの名門シャリテ病院の同僚には神経内科医のAdolf Wallenberg (1862-1949)やHermann Oppenheim (1858-1919)などがいました.彼が執筆した多くの症例報告は現代の神経眼科の基礎を築いたそうですが,その背景にはこのような出会いがあったのだと思います.
Stutzer P, Kesselring J. Wilhelm Uhthoff: a phenomenon 1853 to 1927. Int MS J. 2008;15:90-3.
Grzybowski A, et al. Wilhelm Uhthoff (1853–1927). J Neurol 2015; 262, 243–244. (doi.org/10.1007/s00415-014-7399-3

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