コラム

神経所見・検査所見

2022.09.15

機能的運動異常症に対する新たな診察手技 -Shoulder-Touch test-

機能性運動異常症(FMD)では,高度のふらつきや歩行障害を訴えているにもかかわらず,ほとんど転倒することがないことがあります(機能性とは以前,心因性などと呼ばれたものです).今回,これらの患者に対して,pull testを行い,それに引き続いてごく軽く肩に触れるというShoulder-Touch testが報告されていますのでご紹介します.ちなみにpull testの正しい方法についてはこちらのブログをご参照ください(https://bit.ly/3Ub5WGB).

対象はFMDと診断が確定している48名(女性85.4%)の外来患者と,対照として姿勢保持障害を伴うパーキンソン病(PD)患者9名および進行性核上性麻痺(PSP)患者14名を検討しています.全例にpull testを行なったあと,上述のごく軽く肩に触れるという検査を行います.ここで3歩以上後方に足が出てしまうか,検者が支えなければ転倒すればShoulder-Touch test陽性と判断します.コツはPull testと同様に,患者が数歩足を出せるだけの距離を検者とのあいだに設けることです.

結果でですが,FMDで25/48名(52%)の患者がpull test陽性でした(陽性群と陰性群で臨床上大きな差はなし).この25名のうち12名(48%)がShoulder-Touch test陽性でした.内訳は3歩以上足が出た人が4名,転倒が8名でした.一方,PD/PSP患者23名のうち,Shoulder-Touch test陽性となった者はいませんでした.動画は全例,FMD患者のものですが,さまざまなパターンを認めます:①目の前の壁に支えを求める(case 1,7,10),②小さく後方に足を出し,後ずさりをする(case 2,3,5,6,8),③体幹の過伸展を認める(case 4),④膝折れする(case 9).

以上より,Shoulder-Touch testの感度は48%,特異度は100%ということになります.感度は低いため偽陰性が多く,この診察単独でFMDの評価をすべきではありませんが,この所見を認めた場合には偽陽性は少なく,FMDである可能性が極めて高くなります.ただしFMDに器質的疾患が共存する(functional neurological overlay)ことがありますので,その点は注意が必要です.

以上より,FMDにおいて姿勢保持障害が少なからず認められること,そして,Shoulder-Touch testは感度が低いものの特異度が非常に高いことが示されました.
Geroin C, et al. Shoulder-Touch test to reveal incongruencies in persons with functional motor disorders. Eur J Neurol. 2022 Aug 29.(doi.org/10.1111/ene.15532)動画はフリーです.

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