コラム

神経所見・検査所見

2022.09.07

Hung-up reflex ―腱反射の弛緩相に注目する―

印象的な左膝蓋腱反射の動画です.間欠性歩行障害と広場恐怖症を呈し,当初,機能性運動障害と診断された45 歳女性です.変動する左下肢の筋強直と,安静時の表面筋電図で左腸腰筋の持続的な筋放電を認めました.血清および脳脊髄液でGAD65抗体の上昇(>2,000 U/mLおよび21.09 U/mL)が確認され,Stiff-person候群(SPS)の亜型で,一側の下肢から症状が進展するStiff-limb症候群と診断されました.症状はジアゼパムで軽快しました.

この腱反射はhung-up reflexと呼ばれています.私も回診で,若手の先生が腱反射高度の亢進とプレゼンしたものを「亢進に見えるけど,弛緩相が持続しているので錐体路徴候とは別の病態だよ.強い筋強直と合わせてGAD65やamphiphysin,glycine 受容体などの自己抗体の検索が必要」と議論したことがあります.

この所見は初めにBing (1932)によってハンチントン病(HD)やシデナム舞踏病において報告されました.膝蓋腱反射後に伸展した下肢はすぐには緩まず,大腿四頭筋の持続的な収縮により,数秒間伸びたままになります.HDでは大脳基底核に由来する長ループ反射に伴い大腿四頭筋が過緊張すると考えられています.また甲状腺機能低下症でも報告されています.よくアキレス腱反射の動画を見ますが,これらはChaney-Lambert徴候やWoltman徴候と呼ばれます(https://bit.ly/3RH35n1).いずれにしても,腱反射の弛緩相の所見を見逃さず,鑑別すべき疾患を理解しておくと良いと思います.

López-Jiménez A, et al. Teaching Video NeuroImage: Hung-Up Reflex in Stiff Limb Syndrome. Neurology. 2022 Aug 23;99(8):356.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200938)動画はフリーです.

Fukumoto T, et al. Hung-up Knee Jerk in Huntington's Disease. N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):e10. (doi.org/10.1056/NEJMicm1910309

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