コラム

神経所見・検査所見

2022.08.30

謎多きMann試験

4年生に対する神経診察実習が始まりました.学生とって神経診察は覚えることも多く難関です.冠名徴候といって,診察所見を考案した先達の人名がついているものも多く,初学者には覚えにくいと言われています.ただ暗記しても興味がわかないので,その先達の顔写真や業績なども紹介します.例えばRomberg徴候は,Moritz Heinrich Romberg先生による脊髄癆(神経梅毒)の診察の話(https://bit.ly/3QYYb4L)をすると関心を持ってくれます.

ただ私をずっと悩ませてきたのはMann試験です.「Mannって誰?」と10年以上探してきました.冠名徴候で出てくるような先達はその業績や人生を記した総説があるものですが,Mannは見つかりません.そもそもMann testで検索しても日本からの論文ばかりで,これは日本でのみ使用されている徴候ではないかと思い,ずっともやもやしていました(海外の論文ではtandem/sharpened/modified/augmented Romberg testなどと記載されています).Mann という人名から探しても出てくるのは,「Wernicke-Mannの肢位」に名を残すWernickeの弟子で,ドイツの神経学者Ludwig Mannしか見つかりませんでした.

4年前に私の疑問に対する回答が得られました.尊敬する廣瀬源二郎先生が執筆された名著「神経診察の極意(南山堂)(https://amzn.to/3pR2rYf)」のp60に「『Mann試験』は外国では通じない!」というコラムがあり,そのなかに原著として図の2論文が紹介されていました.
◆ Mann, L.: Zur Symptomatologie des Kleinhirns (über cerebellare Hemiataxie und ihre Entstehung). Monatsschr Psychiatr Neurol 15:409–419, 1904.
◆ Mann, L.: Ueber die galvanische Vestibularreaktion , Neurol Centralbl 31:1356, 1912.

やはりLudwig Mann先生による論文でした.廣瀬先生の解説によるといずれの論文もMann試験に関する直接の記載はなく,「ガルバニー電流刺激による前庭検査で,両足を平行にくっつけて立つより,tandem位にした立位を取ることでより簡単に反応を誘発できる」という記載があり,これに由来するらしいです.さらに廣瀬先生が研鑽を積まれた米国に加え,英国,オーストラリア,そしてMann先生のお膝元のドイツでさえこの冠名徴候は使用されていないことが書かれています.

そうなると次の疑問はなぜ日本でのみこのように広く使われるようになったかです.おそらくドイツで学んだ影響力をもった脳神経内科医のどなたかが広められたのだと想像するのですがどうなのでしょう.この数年,神経診察実習のたびに調べても答えにたどり着かず,ご存知の先生がいらしたらご教示いただけるとありがたいと思う次第です.

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