コラム

神経所見・検査所見

2022.08.09

Charles Bonnet症候群における幻視

最新号のNeurology誌のレジデント向け臨床推論のページに興味深い症例が報告されています.6ヶ月の経過で視力障害と幻視(テディベアやクモ,紙の上の文字,複雑な髪型の顔,波線,色のついた斑点)を呈した48歳女性例です.9ヶ月前に悪性黒色腫と診断され,ニボルマブで治療されていました.神経症候や検査所見は両側視神経炎を示唆します.

質問事項として,幻視の特徴と鑑別診断,確定診断に必要な検査,そして診断を順に聞かれます.幻視の鑑別診断として,後頭葉てんかん,前兆をともなう片頭痛,レビー小体型認知症,進行期パーキンソン病,せん妄,薬剤,精神疾患,ナルコレプシー(入眠時幻覚),中脳幻覚症,アルコールせん妄が挙げられます.本例の幻視は「視力障害をみとめる人における,形のある幻視で,幻視に対する自覚があり,意識障害・認知症・精神疾患をみとめない」特徴があり,診断は「Charles Bonnet症候群(CBS)を合併したチェックポイント阻害薬関連視神経炎」となります(シャルル ボネと書かれた教科書を見ますが,シャルル ボネィと発音するようです).ニボルマブ中止とステロイド,血漿交換で改善しました.

CBSはスイスの博物学者Charles Bonnetが初めて記載しました.87歳の祖父の白内障が進行し,3ヶ月あまり続いた幻視を経験し,次のように論文に記載しました.「健康に恵まれ,飾り気がなく,記憶も判断も保たれ,まったくの覚醒状態で,時折,目の前に外界とは無関係に,男,女,鳥,馬車,建物などの姿が見える.これらの姿は多彩な動きをして,近づいたり遠ざかったり,逃げたり,小さくなったり大きくなったり,現れたり消えたりする」.1967年にDe Morsierが最初のケースシリーズを発表し,Bonnetの名をとってこの症候群と命名しました.

図は加齢に伴う眼疾患でCBSを来した患者さんによるスケッチです(人や顔が多いと言われていますが,形やパターンも見られます).最近のシステマティックレビューでは,診断基準に幻覚と視力障害は必須であるものの,その他は報告によりさまざまで明確なものはないと書かれています.また正確な病態機序も不明ですが,求心性の視覚刺激の喪失が,後頭葉皮質の抑制を解除して,内部で生成された視覚知覚が解放される解放現象仮説等が知られています.経過は自然に消失するもの,持続するもの,神経疾患(レビー小体型認知症)に移行するものに分かれます.
Kizza J, et al. Clinical Reasoning: A 48-year-old Woman With 6 Months of Vivid Visual Hallucinations. Neurology. 2022 May 16:10.1212/WNL.0000000000200806.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200806
Le JT, et al. Associations between Age-Related Eye Diseases and Charles Bonnet Syndrome in Participants of the Age-Related Eye Disease Study 2: Report Number 26. Ophthalmology. 2022;129:233-235.
Hamedani AG, et al. The Charles Bonnet Syndrome: a Systematic Review of Diagnostic Criteria. Curr Treat Options Neurol. 2019;21:41.

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