コラム

神経所見・検査所見

2022.04.28

神経変性疾患の概念を提唱したJendrassikによる腱反射増強法

朝のカンファレンスで「Jendrassikの手技」の話をしました.片側性の膝蓋腱反射の減弱・消失であれば神経根障害の存在を疑いますが,両側性の場合,加齢などによる減弱も考えられるため,「Jendrassikの手技」による腱反射の増強を行います.ハンガリーの神経学者Erno Jendrassik(1858~1921)の名前にちなんだ手技です.通常の手技で膝蓋腱反射が誘発されない場合,坐位で前方に差し出した両側の手指を曲げて互いにひっかけた姿勢を取らせ,ハンマーで膝蓋腱を叩打するタイミングで左右の手指を強く引っ張らせるよう指示します.注意をそらせることで反射が誘発できると教わった記憶もありますが,論文を読むと「他の筋の緊張による求心性インパルスが反射を増強させるため」と説明がなされています.Jendrassikの学位論文は,非神経疾患の患者1000人(!)において腱反射がどのような条件のときに出やすくなったり出にくくなったりするかを検討したもので,この手技はその研究から生まれました.Jendrassikは半年間パリで学び,Charcotにも稀に見る逸材として高く評価され,のちに「ハンガリーのCharcot」とも称されたそうです.さらにパーキンソン病やALSなど,神経変性疾患の概念を初めて提唱したことでも知られています.
田村直俊.Jendrassik, Schafferと遺伝変性疾患.神経内科70;116-20, 2009. 

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