コラム

神経所見・検査所見

2021.12.03

どのようなときにヒステリーによる歩行障害を疑うか?

カンファレンスで「下肢の運動機能は臥位では正常に保たれ,麻痺や失調はないのに,立位や歩行ができない」患者さんについて議論しました.失立(astasia)および失歩(abasia)と呼ばれる状況です.通常,一緒に生じるので失立失歩(astasia-abasia)と呼ばれます.歴史的にヒステリー(解離性・転換性障害)に伴う症候と考えられてきました.写真のような第一次世界大戦後の兵士のヒステリーに対する1920年代の研究が有名です(https://bit.ly/3Ej0V6A).しかし失立失歩は,前頭葉や小脳(上虫部)病変によっても生じうることも明らかにされており器質的疾患の有無の確認が必要です.今回はどのようなときにヒステリーによる歩行障害を疑うか議論しました.以下,列挙します.
◆奇妙な歩行(bizzare gait).
◆一歩ごとに両膝を大きく曲げる歩行.
◆動作が極端に遅い(パーキンソニズムや甲状腺機能低下症はない).
◆全身の激しいふるえを伴う(しかし意識は保たれ,バランスをとれ転倒しない).
◆camptocormiaなどの異常な姿勢.
◆うめき声やため息を伴う大げささ・疲労.
◆心因性の失明や言語障害の合併.
◆密かに観察すると正常な時間帯がある.
ちなみにKeaneによる分類として,片麻痺型,対麻痺型,運動失調型が知られています.
Morris JG et al. Psychogenic gait. pp69-75. Psychogenic movement disorders. AAN press 2006 

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