コラム

神経所見・検査所見

2021.11.15

Man in the barrel症候群(flail arm症候群)のさまざまな原因

回診で筋力低下・筋萎縮が上肢に限局するALSについて議論しました.いわゆるflail arm typeです.「鑑別診断として『man in the barrel症候群』を来しうる疾患を除外する必要があるね」と研修医の先生に話しました.これは上肢が挙上できず,まるで樽に人が閉じ込められたように見えるために名付けられました.厳密には下肢はもちろんですが,顔面や頸部筋の筋力低下を認めないことが定義になります.上肢の運動に関わる大脳のprecentral knob(逆Ω型の中心前回の一部)の両側対称性の障害によって生じるほか,脳幹,頸髄,両側の腕神経叢または末梢神経の障害によっても生じます.最も頻度が高いのは,急性心不全や心臓手術後などの血圧低下により引き起こされる両側分水嶺の脳梗塞です.

【既報の責任病変と原因疾患】
・両側大脳(分水嶺脳梗塞,脳出血,外傷,炎症,転移性腫瘍)
・脳幹(橋梗塞.椎骨脳底動脈解離)
・頸椎・頸髄疾患(外因性圧迫,虚血,炎症,感染症)
・両腕神経叢(機械的損傷,炎症)
・末梢神経(毒性・代謝性神経障害,MMNなどの炎症性,自己免疫性神経障害)
・運動ニューロン(ALS)
Neurology 1999;53:1071, J Neurocrit Care 2015; 8: 30-34, Neurology. 2005;64:1703, J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:e41-e42. 

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