コラム

神経所見・検査所見

2021.02.12

機械工の手(mechanic’s hands)と抗合成酵素症候群

図はNew Engl J Med誌に掲載された「機械工の手」と呼ばれる所見です.名称の由来は,工具を握った時の摩擦面に皮疹が出るため,まるで工具をよく使うせいで手が荒れてしまったかのようだというものです.アミノアシル tRNA 合成酵素(aminoacyl transfer RNA synthetase; ARS)に対する自己抗体(抗 ARS 抗体)が陽性となる「抗合成酵素症候群(anti-synthetase syndrome)」において,筋炎,間質性肺炎,レイノー現象,多関節症,発熱などとともに特徴的な所見として認められます.抗 ARS 抗体として有名なものは,Jo-1,PL-7,PL-12,EJ,OJ,KSの6種類です.以下,本例の病歴と診断です.
14ヶ月前から,指先の痛み,肥厚,ひび割れを認める37歳男性.椅子からの立ち上がりや腕を頭の上に上げることが困難であった.上下肢近位筋の筋力低下が顕著だった.右手(図A)と左手(図B)の両手指の先端と側面に,肥厚し角化した鱗屑状・亀裂状の皮膚所見を認めた.検査ではCK値が20,000 U/L(基準値51~298),抗Jo-1(抗ヒスチジルtRNA合成酵素)抗体と抗SS-A抗体が陽性であった.肺高分解能CT検査は,間質性肺疾患に合致する所見であった.抗合成酵素症候群と診断した.ステロイドとアザチオプリンを1ヶ月間服用したところ,「機械工の手」は消失し,筋力低下と間質性肺疾患も改善した.ステロイド漸減後,6ヶ月ごとにリツキシマブ静注を開始し,その後も無症状を維持している.
N Engl J Med 2021; 384:e16(doi.org/10.1056/NEJMicm2026773

一覧へ戻る