コラム

神経所見・検査所見

2021.01.11

ベッドサイドでのHead Impulse TestにてCANVASを疑う

Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)は両側の前庭機能障害,小脳性運動失調,感覚神経障害を主徴とする症候群です(Neurology 2011;76:1903-1910).その原因遺伝子として,RFC1 (replication factor C1)遺伝子のイントロンに両アレル性AAGGGリピート(ペンタヌクレオチドリピート)の異常伸長が報告されています(J Hum Genet. 2020;65:475-480).CANVASでは約92%の症例でこの遺伝子変異が認められます.日本人でも症例が報告されており,おそらく未診断例が少なからず存在し,適切に診断することが求められます.

診断に有用な神経所見が報告されています.症例は20年来の特発性sensory neuronopathyを認めた85歳男性で,神経学的に自力歩行が困難な感覚性運動失調,軽度の構音障害,すべてのモダリティの感覚低下を認めました.頭部MRIでは小脳虫部萎縮を認めました.ベッドサイドでのHead Impulse Test(HIT)で,両側性前庭性機能障害(動画)を認め,CANVASを疑い,RFC1遺伝子の解析により診断が確定しました.

Bedside HITは,前庭動眼反射を検査するための簡単,迅速,かつ効果的な方法です.頭部を両方向に急速に回転させることで,視標に目を戻す際に異常な衝動性眼球運動(catch-up saccadeと呼ぶ)を確認できます.既報ではvideo HITという高速度カメラと加速度センサーを備えた専用ゴーグルを用いて両側ゲインの低下とcatch-up saccadeを示していますが(丸田ら.臨床神経2019;59:27-32),このようなベッドサイド手技でも疑うことができるので,知っていく必要があります.
Tozza S, et al. Neurol Genet 2021;7:e541(doi.org/10.1212/NXG.0000000000000541

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