神経所見・検査所見
2020.12.03
兎眼 ―うさぎは目を開けて眠るのか?―
先日,3年生に神経診察法の講義をしていて,顔面神経麻痺により完全に目を閉じることが出来ない状態を「兎眼(Lagophthalmos)と呼ぶのだ」という話をしました.Lagoはギリシア語でうさぎ,ophthalmosは眼を意味します.英語でもhare's eye(野うさぎの眼)と呼びます.学生には「うさぎは目を開けて寝る」ので,そこから名前がついたと説明したのですが,昔どこかで「それは嘘」という話を聞いたような記憶がありました.今回,文献をようやく見つけ(doi.org/10.1007/s00266-008-9133-y),真相が分かったので回診で解説をしました.「うさぎは目を開けて寝る」という記載は,なんと古代ギリシアとローマの文献にあるそうです.うさぎは神秘的な生き物で,その生態がよく分からないまま民間伝承の対象となったようです.しかし現代の撮影技術で,うさぎは目を閉じることができ(写真),目を開けたまま眠らないことが判明しました.よって兎眼は「うさぎは目を開けて寝る」という古来の誤った記述に基づく名称と言えます.ちなみにlagophthalmosという用語を最初に使ったのは,ローマの著述家で,ヒポクラテスの学問を受け継いだとも言われるアウルス・コルネリウス・ケルススAulus Cornelius Celsus(紀元前30年頃から紀元後45年頃:ケルスス禿瘡に名を残します)だと言われています.
Lagophthalmos or Hare Eye: An Etymologic Eye Opener. Aesthetic Plast Surg. 32(3):573-4, 2008(doi.org/10.1007/s00266-008-9133-y)ー 場所: 岐阜大学 医学部本館