コラム

神経所見・検査所見

2020.11.11

「二日酔い頭痛」とは何か?

今日,2つ目の頭痛の話題です.この頭痛は頭痛診療のバイブルである国際頭痛障害分類第3版(ICHD-3)では,8.1.4.2 遅発性アルコール誘発性頭痛(Delayed Alcohol-induced Headache;DAIH)と呼ばれています.その診断基準には以下の項目が含まれます.
1)頭痛はアルコール摂取後5~12時間以内に発現する.
2)頭痛は発現後72時間以内に自然消失する.
3)頭痛は以下の3つの特徴のうち少なくとも1項目を満たす:a) 両側性,b)拍動性,c)身体的活動により増悪.

きっと経験的に作られたのではないかと思います(笑).実際,この頭痛は生涯有病率72%ともっとも頻度の高い二次性頭痛でありながら,研究する者はほとんどなく,謎に包まれた頭痛です.ところが最新号のNeurology誌にDAIHの大規模研究が掲載されておりました!スペインのグループが2018年に行った調査で,目的はDAIHの臨床表現型を明らかにすることです.著者らはDAIHが片頭痛ないし低髄液圧性頭痛の特徴を有するのではないかという仮説のもと研究を行っています.

方法は自発的にアルコールを摂取し(笑),頭痛を経験した大学生を対象に横断的研究を行っています.臨床データ等を各自,調査票に記入するアンケート形式です.さて結果ですが,計1,108 名も参加しています(女性 58%,平均年齢 23 歳,頭痛の既往歴 41%).頭痛出現直前の平均アルコール摂取量は158gと,ビール中瓶8本,ワイン2本に相当し(!),蒸留酒は参加者の60%,ビールは41%,ワインは18%が摂取していました(100%を超えるのは一部の人は複数種類飲むため).ICHD3のDAIH診断基準を95%の参加者が満たしていました.頭痛の持続時間は平均6.7時間で,総飲酒量と相関していました(r = 0.62,p = 0.03).85%の患者で両側性であり,前頭部痛が多く見られました(42.9%)(図).痛みの性状は圧迫性(60%)または脈動性(39%)で,83%で身体活動による悪化がみられました.仮説に関しては,ICHD3の低髄圧による頭痛の基準を58%で満たし,片頭痛の基準を36%で満たしていた.

以上より,DAIHは典型的には両側性,前頭部優位で,圧迫感を呈する頭痛であることが分かりました.また片頭痛と低髄圧による頭痛の両方の特徴を持っていました.面白かったのは,この論文の限界が「想起バイアス」と記載されていたことです.つまりどれだけ飲んだのかとか,どんな頭痛だったのかとか,酔ってきちんと覚えていないことが研究結果を歪める恐れがあるということです.思わず,笑ってしまいました.いつも学生には「コンパで酔ったら,小脳失調の神経診察を行ってみなさい.ろれつ不良とか体幹失調(千鳥足),測定障害など体験できるよ」と言っていますが,これからは翌日の頭痛についてもチェックするように言おうと思います(もちろん,自分もチェックします).
Clinical characterization of delayed alcohol-induced headache: A study of 1,108 participants
Neurology. Sep 1, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010607

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