コラム

神経所見・検査所見

2020.11.04

鏡像運動とその原因遺伝子のはたらき

鏡像運動 (mirror movement)は,体の一側を動かすと反対側も無意識に動いてしまう不随意運動です.幼い子供には時々見られますが,10歳を超えて続くのは病的と言われています.Neurology誌のレジデント向けページにとても分かりやすい動画が掲載されていました(フリーです).18歳の男性で,幼少期から手の鏡像運動があったものの増悪はなく,他の神経障害も認めません.動画は3つのパートからなっています(パート1: 右足を動かしても,左足の動きはなし.パート2:一方の手が動くと,他方の手は無意識のうちに同じ動きをする.左右いずれでも起こる.パート3:動きが活発なほど,反対側の動きも激しくなる).頭部MRIは正常ですが,functional MRIでは,一側の手を動かすと,両側の一次運動野と補助運動野の血流が増加します.

責任病変としては,脳梁,補足運動野,頸髄周辺(Chiari奇形やKlippel-Feil症候群など)の報告があり,発現機序としては皮質脊髄路の異常支配,大脳における運動制御機構の異常などが想定されてきました.

遺伝性ないし症候性の鏡像運動が報告されていますが,前者は主として常染色体優性遺伝形式を呈します.軸索ガイダンス分子ネトリンの受容体をコードするDCC(deleted in colorectal cancer)遺伝子の変異が報告され,本例でも新規フレームシフト突然変異が同定されています.遺伝子変異により,その切断が生じ,体の正中線を横切る中枢神経系軸索の発達がうまくいかなくなることが原因と考えられています.本例の脳梁は正常でしたが,部分的無形成の症例も報告されています.

Neurology. August 11, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010599
Ann Neurol. 2019;85(3):433-442.(doi.org/10.1002/ana.25418
Brain Nerve. 2018;70:1217-1224(doi.org/10.11477/mf.1416201167

一覧へ戻る