コラム

神経所見・検査所見

2020.07.11

遊走性紅斑と医学教育における差別

回診で遊走性紅斑(図A)の話をしました.私たちは多発性単神経炎の患者さんに「最近,野山を散策しました?」と質問して,「はい」という答えが返ってくると,牛の目(bull’s eye rash)もしくは的のような皮疹が身体のどこかにないか探します.なぜならマダニによって媒介される細菌スピロヘータによる感染症「ライム病」では,第1期にマダニの刺し口にこの特徴的な紅斑が見られ,第2期に入って神経症状(多発性単神経炎,顔面神経麻痺,髄膜炎)等を呈するためです.偶然にも今週,2度ほど遊走性紅斑の写真を目にしました.ひとつはJAMA誌のもので,「的状の紅斑=ライム病」とは限らず,単純ヘルペスウイルス感染症でも生じうるというものです(図C)(doi.org/10.1001/jamadermatol.2018.3973).
もうひとつはハーバード大学で医師を目指す黒人女性が,NEJM誌に投稿したものです.ライム病の診断の決め手となるこの所見も,黒人患者ではまったく見え方が異なるため(図B),教科書には両者を掲載すべきこと,さらに心肺蘇生を学ぶマネキンも白人男性がモデルで,女性での経験ができないことを指摘し,古くから残る医学教育における人種差別(racism)や性差別について議論していました(doi.org/10.1056/NEJMp1915891).考えさせられる論文でした.

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