コラム

神経所見・検査所見

2019.08.12

「他人の手徴候」の定義の変遷

先日の回診で「背中に手を回し,左手を右手で掴んだ時に左手が自分のものではないと感じる」ため,他人の手徴候が陽性ですというプレゼンがありました.「それは半側身体失認のことではないのかな?」と思い,プレゼンをした工藤先生に意図を伺うと,原著の他人の手徴候の定義を使用されていました.原著は1972年,フランスのBrionらが脳梁後部病変(脳腫瘍)により,上記の半側身体失認=体性感覚系の障害を呈した患者3名に対してこの用語を用いたのが始まりです.しかし1979年,Bogenがこの論文を引用し,alien handとして,「右利きの患者の左手が他人のもののように非協力的に振る舞う」と,運動面の機能異常に対してこの表現を用い,これが英語圏で一般的に用いられるようになりました.現在は一般的には「左手がある程度まとまりがあるものの特定の目的なく不随意に動く現象」を指しますし,より詳細には表のように前方型,後方型のように分けて使用します.他人の手徴候のプレゼンの際にはどの定義を用いているかを合わせて述べると混乱を防ぐことができます.

一覧へ戻る