コラム

神経所見・検査所見

2018.11.07

左手の動きに注目!他人の手徴候(Alien hand syndrome)

中大脳動脈領域の脳梗塞を発症した90歳代の女性は右手でティッシュを取ろうとしますが,左手が勝手に動いてしまい「私の腕はどうしてしまったの?」と嘆き苛立っています.自己の意志で止めることができず,右手で左手を抑制するしぐさが観察されます.「他人の手徴候」と呼ばれる所見で,責任病巣は脳梁膝部と脳梁体部前半,右前頭葉内側面とされていますが,メカニズムは十分に分かっておらず,脳の不思議さを感じます. ただこの用語には歴史的に混乱があります.通常,福武先生らの総説(神経内科88;126-131, 2018)にあるように「左手がある程度まとまりがあるものの特定の目的なく不随意に動く現象」と定義されますが,原著のように身体失認の意味で使われたり,運動保続や拮抗失行,道具の脅迫的使用などを含めた解離性運動抑制障害の総称として使用されることもあり文献を読むとき注意を要します.本例も広義では他人の手徴候と言えますが,「一側肢の随意的な行為を反対側の手が妨害する」という意味では拮抗失行と言えるように思います.

Neurology. 2018 Sep 11;91(11):527.

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