コラム

医療と医学

2024.02.02

第3のアルツハイマー病『医原性アルツハイマー病』 の発見!!

最新号のNature Medicine誌の論文です.英国から,小児期に頭蓋咽頭腫や特発性成長ホルモン欠損症などのために,屍体由来(ヒトの死後)の脳下垂体から抽出した成長ホルモン(c-hGH)による治療を受けた8名のうち5名が早期発症のアルツハイマー病(AD)を呈したという報告がなされています.孤発性,家族性に加え,第3の病型として医原性が加わることになります.

まず背景ですが,1959年から1985年にかけて,英国では少なくとも1848人の患者にc-hGHが投与されました.じつはこの一部がプリオン蛋白とアミロイドβ(Aβ)に汚染されており,比較的若い成人において医原性クロイツフェルト・ヤコプ病(iCJD)を発症したため,この製品は使用中止となりました.そしてこのiCJD患者の病理学的検討で,アミロイド病変(脳アミロイド血管症)を認めたことも明らかになっています.しかしCJDの徴候が目立つため,これらの患者が生前にADを来したのかは不明でした.ちなみに現在も保管されているc-hGHは,いまだに測定可能な量のAβを含み,マウスに投与するとアミロイド病変をきたすそうです.

さて上記の報告後,c-hGHの使用歴のある8名の患者が特定され,その検討結果が報告されたのが今回の論文になります.全例がWilhelmi法もしくはHartree-modified Wilhelmi法を用いて大量に調整されたバッチを使用していました.上述の通り,5名がADを発症,1名がMCIでした.ADの発症年齢は38, 46, 48, 49, 55歳と若く(c-hGHは数年間にわたって複数回投与,投与後30~44年経過),他の疾患は否定され,c-hGHに起因する可能性が示唆されます.症候的には健忘に加えて,行動異常,遂行機能障害,さらに言語障害が早くから出現し,重症で,進行が速いという特徴もみられました.ADに関連する遺伝子検査はいずれも陰性で,ApoE4もヘテロが1名のみでした.画像・生化学バイオマーカーではADとして矛盾は認めませんでした(図1:MRIとアミロイドPET).病理学的検索は生検1名!(図2),剖検も1名で行われ,病理変化は非常に広範で,高度のアミロイド血管病変も認めました.以上より,c-hGHによりアルツハイマー病は伝播し得ることが分かりました.

ただし日常の医療でADが感染し伝播するかは分かっていません.著者はc-hGHは既に使用中止となっていることから,ADが医原性に伝播する可能性は非常に低いと述べています.ただしADは非常に多い疾患であるため,今後,外科的な診療行為を介した伝播が本当にないのか,予防策を講じる必要はないのか議論が必要だという意見がネット上多くみられます.ちなみに日本でもc-hGHは使用された時期があるようですが,抽出法を含め詳しい情報は見当たりませんでした.

あと関連する内容として,屍体硬膜移植に伴う脳アミロイド血管症は複数の報告がなされています(Neurol Sci. 2019;399:3–5).ブログ「若年者の繰り返す脳出血で確認すべきこと ―屍体硬膜移植に伴う脳アミロイド血管症―(http://tinyurl.com/ymnz8as4)」で紹介しておりますのであわせてご覧いただければと思います.
Banerjee G, et al. Iatrogenic Alzheimer's disease in recipients of cadaveric pituitary-derived growth hormone. Nat Med. 2024 Jan 29.(doi.org/10.1038/s41591-023-02729-2

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