コラム

医療と医学

2023.10.30

IgLON5抗体関連疾患では免疫療法を行っても脳内タウ沈着は進行する

IgLON5抗体関連疾患は中核症状として,睡眠障害(パラソムニア,閉塞型無呼吸,喉頭喘鳴),脳幹障害(嚥下・構音障害,眼球運動障害,呼吸障害など),舞踏運動などの不随意運動,パーキンソニズム,歩行障害,姿勢保持障害,自律神経症状などを呈します.当科で抗体測定が可能ですが,4症例を経験し,診断まで2~7年,臨床診断はCBS,PAF→MSA+球麻痺,MSA(鑑別診断ALS),PD→呼吸不全がそれぞれ1例ずつ,全例免疫療法で何らかの症状の改善を認めています.

病理学的には脳幹および視床下部のリン酸化タウ沈着(AT8)を認めます.病初期には神経炎症(脳脊髄液細胞数↑),進行すると神経変性(抗体価↑)が主体となり,リン酸化タウが蓄積してくると推測されています.このため「自己免疫性タウオパチー」とも呼ばれています.今回,ドイツより第2世代のタウPETトレーサー(18F-PI-2620)を用いて,4名の患者のタウ沈着を検討した研究が報告されました.

まず図左に4名の所見を提示したように,橋,延髄背側,小脳にタウ沈着を認めました.これは既報の剖検における所見と一致していました.またこの蓄積部位は,睡眠障害,自律神経障害,眼球運動障害,歩行障害の責任病変として矛盾はありませんでした.

今回,明らかになったのは,症例2の28ヵ月の縦断的検討で,免疫療法(ステロイド,IVIG,アザチオプリン)により症状や抗体価が改善したにもかかわらず,延髄におけるタウ沈着が増加しており,免疫療法を行っても神経変性が進行する可能性が示唆された点です(図右上).またタウ沈着は,抗体価が高いほど(図右下),NfL値が高いほど,臨床症状の重症度が高いほど沈着が増加することが分かりました(治療までの期間と罹病期間とは明らかな相関はなし).

著者は,本症におけるタウ沈着は,自己抗体によって引き起こされるタウリン酸化の亢進に続発するものと考えています.まだ4症例における検討であり,今後,より大規模な縦断的研究が必要と考えられます.神経変性疾患として非典型的な症候を呈する症例,脳脊髄液で細胞数・蛋白上昇を認める症例,HLA-DRB1*10:01ないしDQB1*05:01を認める症例ではぜひ,抗体のcell-based assayをご相談ください.
Theis H, et al. In Vivo Measurement of Tau Depositions in Anti-IgLON5 Disease Using 18F-PI-2620 PET. Neurology. 2023 Oct 25:10.1212/WNL.0000000000207870. (doi.org/10.1212/WNL.0000000000207870

一覧へ戻る