コラム

医療と医学

2023.08.11

頭蓋骨と脳は密接なつながりがある:神経疾患を頭蓋骨から診断し治療する時代が来る!!

4月8日のブログで,long COVIDのメカニズムに関して,SARS-CoV-2ウイルスが頭蓋骨の骨髄から,脳をつつむ髄膜の一番外側で最も丈夫な層である硬膜を,頭蓋骨・髄膜結合(skull-meninges connection;SMC)と呼ばれる小さな孔を通って脳に到達するという驚きのプレプリント論文を紹介しました.頭蓋骨と脳は直接の相互作用がないという従来の理解を覆すもので,近いうちにSMCの詳細に関する論文が出ると思っていましたが,なんとCell誌に発表されました.それも神経疾患の診断・治療を大きく変えうる驚くべき内容でした.

ドイツの研究チームはまずマウスにおいてscRNAseqとプロテオミクスを用いて,骨髄細胞は全身の骨ごとに不均一で,頭蓋骨が最もユニークな特徴を持つことを見出しています.つぎにヒトに移り,プロテオミクスを用いて,脊椎や骨盤と比較して頭蓋骨のプロテオームが特殊であることを見出しました.驚くべきことに,頭蓋骨では脳に存在するシナプスタンパク質が多数,同定されました!このことは,頭蓋骨と脳の間の双方向のやり取りがあることを示唆します.

このため近年発達が著しい透明化技術を駆使して,健康なヒトの脳,髄膜,頭蓋骨を透明化し,驚くべきことに,ヒトのSMCは硬膜を越えて硬膜下腔まで広がっていることを示しています(図1).また頭蓋骨は免疫防御に重要な役割を果たす好中球や単球を保持していることも確認されました.

最後にヒト頭蓋骨のtranslocator protein(TSPO)-PETを行っています.TSPOは活性化したミクログリアやアストロサイトで発現が亢進し,脳に浸潤したマクロファージでも発現します.アルツハイマー病,4リピートタウオパチー,脳卒中,多発性硬化症などの様々な疾患において頭蓋骨における取り込み増加が確認されました.頭蓋骨からの信号が,その下にある脳からの信号を反映し,これらの信号の変化がアルツハイマー病や脳卒中患者の病気の進行に対応していることを発見しました.具体的には脳卒中患者では時間とともに減少しましたが,アルツハイマー病患者では経時的に増加しました(図2).

以上より,頭蓋骨は体表に近い場所にあるため,光音響イメージング技術などの携帯型センサーによって簡単かつ迅速に画像化できるようになるかもしれません.そうなると頭蓋骨を通して脳の健康状態を確認したり,神経疾患の早期診断ができるようになる可能性があります.またアルツハイマー病や脳卒中などにみられた神経炎症も,頭蓋骨経由で制御できる可能性もあります.この発見は,神経疾患の診断・治療のゲーム・チェンジャーになるかもしれません.

Kolabas ZI et al. Distinct molecular profiles of skull bone marrow in health and neurological disorders
Cell. August 09, 2023(doi.org/10.1016/j.cell.2023.07.009
SARS-CoV-2ウイルスとSMCに関するブログ
https://blog.goo.ne.jp/.../4735f27e9f821e331f2dccb24dc12006

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