コラム

医療と医学

2023.03.31

アルツハイマー病治療薬レカネマブの米国における適正使用ガイドライン発表 ー患者さんの安全を守るためにー

3月27日,J Prev Alzheimers Dis誌にアルツハイマー病治療薬レカネマブの適正使用ガイドラインが論文として発表されました.読んだ感想としては,患者さんの安全を守るため,エビデンスに基づく厳格な推奨がなされており,非常に望ましいものと思いました.本邦においてもこれを踏襲すべきと思います.その理由は,レカネマブは使用法を誤ると無効なだけでなく,致死的な合併症も来たしうる薬剤であるためです(これは多くの方に知っていただきたいです).

個人的に注目したガイドラインの要点は以下になります.
1)安全性と有効性のためにレカネマブの臨床試験と同様に治療を行う
2)臨床医・施設で重篤な事象の管理に関するプロトコルを作成する
3)患者とそのケアパートナーはこの治療の潜在的な利益,潜在的な有害性,およびモニタリングの必要性を理解する → そのための説明・教育プログラムが必要となる
4)安全性確保のために遺伝子検査(APOE遺伝子型)が推奨される
5)4回以上の微小出血やその他の脳血管障害の証拠がある患者を治療から除外する
6)抗凝固薬による治療を必要とする患者には使用しない
7)レカネマブ使用中の患者には虚血性脳卒中に対する血栓溶解療法を実施しない
8)無症候性ARIAを監視するために,ベースライン時,第5,7,14回目の治療前,(症例によっては)治療52週後にMRIを撮像し,ARIAを示唆する症状がある場合もMRIを行う(図).

1)はガイドラインの基本的な姿勢を示していますが,有効性と安全性の臨床試験と同様の診療を求めています.大賛成ですが,当然,医療機関に求められるハードルは高くなり,相応の準備が必要になります.
2―4)はまだ準備ができていないのではないかと思います.4)の遺伝子検査はAPOE4遺伝子型を有する場合,脳アミロイドアンギオパチーや脳血管障害合併リスクが高く,重篤な副作用(出血合併症)を来たしうるため行いますが,遺伝子診断の体制づくりや,遺伝子診断後の患者さんのフォローアップ等が重要になります.
5-7)も重篤な出血合併症を防止するために不可欠ですが,アルツハイマー病患者には抗凝固薬を必要とする患者さんも少なからずいますし,脳梗塞を発症しても血栓溶解療法は行えないということは,患者さんにかなり難しい判断を迫ることになるのではないかと思います.

いずれにしてもレカネマブの非常に重要な問題を真正面から議論しているガイドラインであり,本邦でも踏襲することが望まれます.少なくともハードルが高いとか,準備の時間がないとか,負担が大きいとかといった理由で見切り発車ということは避けるべきと思います.時間をかけても万全の体制を作るべきと思います.
Cummings, J., Apostolova, L., Rabinovici, G.D. et al. Lecanemab: Appropriate Use Recommendations. J Prev Alzheimers Dis (2023). https://doi.org/10.14283/jpad.2023.30

一覧へ戻る